自己破産の資産目録の書き方と添付資料(東京地裁本庁)
東京地方裁判所本庁においては,自己破産の申立書に資産目録を添付して申立てをする必要があります。資産目録は,一覧と明細に分かれています。一覧において「有」とした財産については,その具体的内容等を明細に記載する必要があります。
ここでは,この東京地方裁判所本庁における自己破産の資産目録はどのように書けばよいのか,また,どのような書類・資料を添付すればよいのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
- 東京地裁本庁における資産目録
- 資産目録(一覧)の書式と作成方法
- 資産目録(明細)の書式と作成方法
- 明細1:申立て時における現金
- 明細2:預金・貯金
- 明細3:公的扶助の受給
- 明細4:報酬・賃金(給料・賞与等)
- 明細5:退職金請求権・退職慰労金
- 明細6:貸付金・売掛金等
- 明細7:積立金等(社内積立,財形貯蓄,事業保証金等)
- 明細8:保険(生命保険,傷害保険,火災保険,自動車保険等)
- 明細9:有価証券(手形・小切手,株式,社債),ゴルフ会員権等
- 明細10:自動車・バイク等
- 明細11:過去5年間において,購入価格が20万円以上の財産
- 明細12:過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産
- 明細13:不動産(土地・建物・マンション等)
- 明細14:相続財産
- 明細15:事業設備,在庫品,什器備品等
- 明細16:その他,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産
(著者 : 弁護士 志賀 貴 )
東京地裁本庁における資産目録
破産手続開始の申立書には,いくつかの書類を添付しなければならないとされています。その添付書類の1つに,「財産目録」があります。財産目録とは,文字どおり,債務者の主要な財産を記載した目録のことです。
東京地裁本庁では,この財産目録に相当する添付書類の書式が用意されています。それが「資産目録」です。
東京地裁本庁では,破産手続開始・免責許可の申立書(以下「自己破産の申立書」といいます。)に,上記の資産目録を添付して申立てをしなければならないとされています。
資産目録のような書式が用意されているのは,東京地裁本庁だけに限りません。他の裁判所でも同じような書式が用意されていることがあります。
東京地裁立川支部でも自己破産申立書に資産目録を添付しなければなりませんが,本庁とは若干書式が異なっています(ただし,内容はほとんど同じです。)。
東京地裁本庁の資産目録は,一覧と明細に分かれています。
一覧には資産の有無を一覧の形式で記載し,明細には,一覧において「有」とした資産について,それぞれの資産の具体的な内容・数量・価額等を記載します。
資産目録(一覧)の書式と作成方法
東京地裁本庁の資産目録は,まず一覧に,各資産の有無を記載する必要があります。各項目の資産がある場合には「有」に,無い場合には「無」に〇を付けます。
資産目録に記載する項目は,以下のとおりです。
- 申立て時における33万円以上の現金
- 預金・貯金
- 公的扶助の受給
- 報酬・賃金(給料・賞与等)
- 退職金請求権・退職慰労金
- 貸付金・売掛金等
- 積立金等(社内積立,財形貯蓄,事業保証金等)
- 保険(生命保険,傷害保険,火災保険,自動車保険等)
- 有価証券(手形・小切手,株式,社債),ゴルフ会員権等)
- 自動車・バイク等
- 過去5年間において,購入価格が20万円以上の財産
- 過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産
- 不動産(土地・建物・マンション等)
- 相続財産
- 事業設備,在庫品,什器備品等
- その他,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産
2番の「預金・貯金」については,申立てから過去2年以内にまったく預貯金口座を保有していなかった場合には,無に〇をするだけでなく,「過去2年以内に口座を保有したことがない」のチェックをします。
16番の「破産管財人の調査によっては回収可能となる財産」が有る場合には,有に〇をするだけでなく,その財産の内容に応じて「過払いによる不当利得返還請求権(過払金返還請求権)」「否認権行使」「その他」のいずれかにチェックを入れます。
資産目録(明細)の書式と作成方法
資産目録(一覧)において「有」とした財産については,資産目録(明細)にそれぞれの資産の具体的な内容・数量・価額等を記載します。
なお,資産目録(一覧)において「無」とした財産については,明細に記載する必要はないので,項目を削除するか,「なし」と記載します。
申立て時における現金
自己破産申立て時点において現金を有している場合には,資産目録明細「現金」への記載が必要です。
現金の記載欄には,実際に所持している現金の金額を記載します。ここに記載するのはあくまで所持している現金です。金融機関に預けている預金・貯金は含まれません。
いわゆるタンス預金は,金融機関に預けているわけではありません。あくまで,ご自身の管理が行き届く範囲にある金銭ですから,ここでいう現金に含まれます。
なお,33万円以上の現金を有しているかどうかが同時廃止になるか管財事件になるかどうかの振り分けの基準となりますが,資産目録には,33万円以上か否かにかかわらず,有している現金の金額を記載しなければならないとされています。
現金の記載方法・疎明資料
自己破産申立書添付の資産目録には,「現金」の金額を記載しなければなりません。
具体的には,自己破産申立て時点において所持している現金の金額を記載することになります。できる限り,細かい金額まで書いたほうが良いことは言うまでもありません。
この現金の金額については,引継予納金として支払う予定の金額も含めることになっています。
また,前記のとおり,破産申立ての時点において現金があれば,その有する現金の金額を常に記載しなければならないとされています。
現金については,基本的に,疎明資料や書類の添付は必要とされていません。自己破産するのですから,あまり現金を持っていないのが通常だからです。
もっとも,本当ならもっと現金があるはずだと推測できる場合があります。例えば,過払い金がたくさん返ってきているような場合です。
それにもかかわらず,異常に現金が少ないというような場合は,裁判所に財産隠しや浪費の疑いを持たれるおそれがあります。この疑いを解くために,現金の使途等の資料を提出する必要が生じる場合もあります。
例えば,病院に入院して使ってしまったという場合。この場合には,診断書や診療報酬明細などを提出することになります。他にもいろいろな場合が考えられるでしょう。
自己破産手続をするという決意をしたら,なるべく資料をとっておくことです。現金を使った場合には,明細や領収書をとっておくべきでしょう。そうすれば,あとで説明するのに役立ちます。
現金を記載する意味
現金は一番分かりやすい財産です。したがって,これを財産目録に記載しなければならないのは当然のことです。
もっとも,破産法上,99万円未満の現金は自由財産とされています。現金を記載しているかといって,すべて回収されてしまうというわけではありません。
ただし,東京地裁の少額管財の予納金は20万円とされています。20万円以上現金があるなら,それでこの予納金を支払えます。つまり,破産手続費用を支払えるということになります。
そうすると,破産法上,同時廃止となるのは破産手続費用を支払えない場合だけですから,20万円以上の現金によって破産手続費用を支払えるなら,同時廃止にはならないようにも思えます。
もっとも,民事執行法第131条第3号は「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」を差押禁止財産としており,民事執行施行令第1条は「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」は66万円であるとしています。
つまり,標準的な世帯における1か月の必要生計費を33万円としているということです。
そうであるとすれば,少なくとも,33万円の現金は生活の維持に最低限必要となると法も解釈しているということです。
そこで,東京地方裁判所(本庁および立川支部)では,現在(令和4年12月2日現在),33万円以上の現金がある場合にのみ管財事件になり,現金が33万円未満しかない場合には同時廃止になるという運用を採用しています。
ただし,資産目録「現金」には,33万円以上であるか否かを問わず,自己破産申立て時点において有している現金の金額を必ず記載しなければならないとされています。
預金・貯金
自己破産申立てから過去2年間において預金・貯金を保有していた場合には,資産目録明細「預金・貯金」への記載が必要です。
ここでいう預金・貯金とは,金融機関等に預け入れている預金・貯金口座のことです。法的に言えば,金融機関に対する預貯金返還請求権という債権です。
ご自身で自宅等で貯金しているような,いわゆる「タンス預金」は含みません。タンス預金は前記「現金」扱いとなります。
預金・貯金には,銀行・旧郵便局(現在はゆうちょ銀行)・信用金庫・労働金庫・農協・共済等の預貯金口座だけでなく,証券口座・FX口座等やネットバンクも含まれます。
また,口座の種類は問いません。普通預金・当座預金・定期預金・貯蓄預金など,どの種類の口座であっても記載が必要とされます。
加えて,記載しなければならない預貯金口座は,現在使っているものだけではなく,使っていない口座もすべて記載する必要があります。
さらに,すでに解約している預貯金口座であっても,その解約が自己破産申立てから2年以内にしたものである場合には,やはり記載をしなければなりません。
「預金・貯金」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 金融機関・支店名:銀行名等と支店名を記載します。
- 口座の種類:普通預金・定期預金等の種類を記載します。
- 口座番号:口座番号を記載します。
- 申立て時の残高:申立て時の口座残高を記載します。0円でも記載が必要です。
- 通帳記帳日:実際に通帳を記帳した最終日を記載します。東京地裁本庁では,最低でも申立てから1週間以内に記帳をして確認することが必要とされています。
通帳がない場合,合計記帳(合算記帳・おまとめ記帳)されてしまっており,取引履歴の一部が省略されてしまっている場合には,各金融機関で取引履歴・明細を発行してもらう必要があります。
金融機関・支店名
東京地裁本庁の資産目録においては,「金融機関・支店名」を記載する必要があります。金融機関名だけでなく,口座を開設している支店名の記載も必要です。
なお,解約済の口座については,金融機関名欄,口座残高欄または欄外に解約済である旨を記載しておいた方が分かりやすいでしょう。
口座の種類・口座番号
東京地裁本庁の資産目録では,「口座の種類」と「口座番号」の記載が必要となります。
口座の種類とは,普通預金・定期預金・当座預金・貯蓄預金などの区別のことです。通常の預貯金でなく証券口座や外貨預金口座などである場合には,その旨を記載します。
口座番号も正確に書いておく必要があります。なお,旧郵便局口座には口座番号が書かれておらず,記号番号しか記載されていないことがありますが,ゆうちょ銀行のサイトで口座番号を調べることが可能です。
申立て時の残高
東京地裁本庁の資産目録においては,「申立て時の残高」を記載する必要があります。当然,正確な数字を記載します。0円でも記載が必要です。
理想をいえば,自己破産申立てをする日に通帳を記帳して,その金額を記載して申立てをするのが望ましいことは間違いありません。もっとも,銀行が遠いなどの理由から難しいこともあるでしょう。
そこで,通常は,申立て予定日にできる限り近い日に記帳をして,その金額を記載することになります。
東京地裁本庁では,申立て前1週間以内に記帳をして,その金額を記載しなければならないとされています。
通帳記帳日
東京地裁本庁の資産目録においては,「通帳記帳日」を記載する必要があります。通帳記帳日とは,実際に通帳を記帳した日です。
預金残高は資産に当たりますから,破産申立てまたは破産手続開始の時点で幾らの残高があるのかは重要な問題です。そのため,申立日の現在または直近における残高を調査しておく必要があります。
ご自分では通帳に動きがないと思っていても,思わぬ入出金があったり,銀行側の都合で通帳に動きが生じていることもありますので,実際に記帳機に通帳を入れて,記帳をしておかなければなりません。
通帳記帳をさぼってしまうと,予想外の入出金があって破産手続において問題となったり,思わぬ入金によって換価対象となるほどの預金残高となってしまっているなどの事態が生じることが有り得ますので,注意が必要でしょう。
なお,前記のとおり,東京地裁本庁では,破産申立日の前1週間以内に記帳をして申立てをしなければならないとされています。
預金・貯金の添付資料
預金・貯金の疎明資料は,預貯金の取引明細・明細が記載されている通帳写し(コピー)です。表紙や中表紙等も含めて全部のページのコピーを添付する必要があります。
この口座取引明細・履歴は,最低でも,自己破産申立てからさかのぼって2年分以上の取引履歴が記載されている通帳写しの添付が必要とされています。
1冊だけでは2年分にならない場合には,数冊にわたって添付しなければならないこともあります。
おまとめ・一括記帳等や通帳がない場合
問題は,途中が抜けてしまっている場合です。通帳は,一定期間記帳をせずに放っておくと,その記帳しなかった期間の明細が省略されてしまうことがあります。ところどころ空白ができてしまうのです。
いわゆる合算記帳・合計記帳・一括記帳・おまとめ記帳などと呼ばれる場合です。
空白があるままで裁判所に提出することはできません。合算記帳等によって空白期間がある場合には,金融機関にその合算・おまとめ部分の取引明細を発行してもらう必要があります。
ただし,合算・おまとめ部分の発行は,金融機関によっては手数料がかかる場合があります。通帳等はこまめに記帳しておくべきでしょう。破産以外の場合にも裁判の証拠としていろいろ役に立つことがあります。
また,通帳をなくしてしまった場合やそもそも通帳のないタイプの口座の場合も,合算記帳の場合と同様,取引履歴2年分を金融機関に発行してもらうことになります。
ネットで取引履歴をダウンロードできる場合には,ダウンロードをして印刷をしたものを添付する場合もあります。
ただし,エクセルに数字だけ記載されている程度のものですと,裁判所から正式なものの再提出を求められることがあります。
預貯金取引履歴の重要性
預貯金口座の取引履歴からは,さまざまな入出金の情報を読み取ることができます。
口座の入出金から債権者が判明したり,他に財産があることが判明するようなこともあります。また,出金の内容等によっては,浪費などの免責不許可事由や否認権対象行為が発覚する場合もあります。
実にいろいろな情報を手に入れられるのです。そのため,裁判所は,疎明資料のうちでも,特に預貯金取引履歴を最も重視しており,これに不備がある場合には必ず補正を求められます。
仮に資産目録に記載していない預貯金口座が後で発覚すると,裁判所や破産管財人から不審に思われることがありますので,過去のものも含めて調査をしておく必要があります。
預金・貯金を記載する意味
預金・貯金も,現金と並んで分かりやすい財産です。したがって,資産目録に記載する項目が用意されています。
法的に言えば,金融機関に対する預貯金返還請求権という債権です。債権も資産です。回収すればお金になるのですから,当然のことです。そのため,この預貯金返還請求権も資産となるのです。
この預貯金は法律上の自由財産ではありません。しかし,現代では,ほぼ現金と同様の取扱いがなされています。一般的感覚としても,現金と同じような感覚だと思います。
そのため,東京地裁本庁・立川支部では特別の取扱いがなされており,持っている預貯金口座の残高合計額が20万円未満の場合には,自由財産として換価処分しなくてもよいという取扱いがなされています。
ただし,自由財産となるのかどうかは,持っている預貯金すべての合計残高金額で判断されます。
1つ1つの口座には20万円以上の預貯金がなかったとしても,全部の口座の残高合計が20万円以上であれば,自由財産とはならず,処分が必要となるということです。
また,前記のとおり,預貯金取引履歴は,そこから預貯金以外の資産等を調査できるため,資料として重要な意味も持っています。
公的扶助の受給
自己破産申立て時点において公的扶助を受給している場合には,資産目録明細「公的扶助の受給」への記載が必要です。
公的扶助とは,最低限度の生活を保障するための公的機関による経済的援助のことをいいます。生活保護給付金,児童手当,児童扶養手当,障害者手当などがあります。
国民年金などは,ご本人で保険料を支払っていたことに基づいて支払われるものであり,厳密には公的扶助とはいえないかもしれませんが,「公的扶助の受給」欄に記載することになっています。
「公的扶助の受給」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 種類:「生活保護」「児童手当」など,受給している公的扶助の種類を記載します。
- 金額:受給金額の月額を記載します。数か月に1度という場合は,1月分に計算し直して記載します。
- 開始時期:受給開始の年月日を記載します。
- 受給者の名前:受給者の名前を記載します。
公的扶助の種類
東京地裁本庁の資産目録においては,受給している公的扶助の「種類」を記載する必要があります。
例えば,「生活保護」「児童手当」「児童扶養手当」などです。複数受給しているときは,行を足してすべて記載します。
受給されている公的扶助の名称については,支給先の公的機関から発行されている支給の決定書や受給証明書に記載があります。
公的扶助の金額
東京地裁本庁の資産目録においては,受給している公的扶助の「金額」を記載する必要があります。
金額は正確な金額を記載する必要があります。支給額についても支給の決定書や受給証明書に記載があります。
なお,公的扶助の場合,2か月に1回,4か月に1回など,毎月支給ではない場合もありますが,「金額」欄には,1か月分の金額に計算し直した金額を書くことになります。
例えば,4か月に1回6万円の支給であれば,「1万5000円/月」と記載します。
開始時期
東京地裁本庁の資産目録においては,当該公的扶助の受給についての「開始時期」を記載する必要があります。
当該公的扶助の支給が開始された年月日を記載します。数年継続しているような場合には,一番最初の年月日を記載する必要があります。開始時期についても,決定書や受給証明書に記載してあるはずです。
受給者の名前
東京地裁本庁の資産目録においては,当該公的扶助の「受給者の名前」を記載する必要があります。
基本的には,申立人のはずですので「申立人」などと記載しますが,申立人でない場合にはその人の名前を記載します。これも,決定書や受給証明書に記載してあります。
公的扶助の受給の添付資料
公的扶助の受給について添付する書類・資料は受給証明書の写し(コピー)です。受給したばかりであれば,支給開始の決定書の写しでも大丈夫でしょう。
受給証明書は,当該公的扶助の支給先である公的機関で発行してもらうことができます。
年金の場合は年金手帳でも良いでしょう。障害者手当の場合は,障害者手帳などを提出することもあります。
公的扶助の受給を記載する意味
公的扶助の受給を受ける権利も債権ですから,資産・財産に該当するといえます。
もっとも,公的扶助の受給権は差押禁止債権です。したがって,破産法上も自由財産とされており,換価処分されてしまうわけではありません。
公的扶助の受給を記載するのは,資産を確認するというよりも,申立人債務者の方の収入を確認するという意味合いの方が強いでしょう。
ただし,いったん受給されて現金または預貯金となっている場合には,現金または預貯金扱いとなり,場合によっては換価処分される場合もありますので,注意が必要です。
報酬・賃金(給料・賞与等)
自己破産申立て時点において報酬や賃金をもらっている場合,要するに,何らかの仕事をしている場合には,資産目録明細「報酬・賃金(給料・賞与等)」への記載が必要です。
賃金とは,使用者が労働の対価として労働者に対して支払うすべてのもののことをいいます。いわゆる給料や給与です。賞与やボーナスもここに含まれると考えてよいでしょう。
個人事業者であれば,賃金ではなく,報酬を受け取ることになりますが,これも記載が必要です。
「報酬・賃金(給料・賞与等)」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 種類:受け取っている報酬・賃金の種類を記載します。例えば,「給料」「賞与」「請負報酬」等です。
- 支給日:報酬・賃金の支給日を記載します。給与など定期的に支払われるものについては「毎月●日」と記載し,賞与は申立て前直近の支給日を記載します。
- 支給額:報酬・賃金の支給額を記載します。月によって変動がある場合などは,申立て前2か月分の平均額などを記載することになるでしょう。
報酬・賃金の種類
東京地裁本庁の資産目録においては,支給を受けている報酬や賃金の「種類」を記載する必要があります。
例えば,「給料」「賞与」「請負報酬」「業務委託報酬」などのように記載します。「失業手当」も,この報酬・賃金欄に記載するのが通常と思われます。
報酬・賃金の支給日
東京地裁本庁の資産目録においては,支給を受けている報酬や賃金の「支給日」を記載する必要があります。
給料などは定期的に支払われるのが原則です。その場合には,「毎月●日」と記載します。
また,賞与については申立て前直近(申立ての前で最後にもらったもの)の賞与支給日を記載します。あるいは「毎年●月●日」などと記載することもあります。
報酬についても,定期的に定額が支払われるのであれば,給与と同じように記載します。
不定期で支給日も金額も異なる場合には,実際の支給日の年月日を記載します。複数ある場合には行を変えて複数記載します。
ただし,全報酬を記載するのは無理です。後述のとおり,添付資料として申立て直前2か月分の報酬に関する資料の提出が必要とされているので,それに合合わせて,申立て直前の2か月分を記載するのが通常です。
報酬・賃金の支給額
東京地裁本庁の資産目録においては,支給を受けている報酬や賃金の「支給額」を記載する必要があります。
給与などについては,申立て直前2か月分の平均額やおおよその支給されている金額を記載することになります。
支給額が毎月違う場合には,分けて書いたほうがいいかもしれません。その場合には,それぞれの支給年月日と支給額を具体的に記載することになるでしょう。
報酬・賃金の添付資料
報酬・賃金については,申立て直近2か月分の給与明細書の写しを添付する必要があります。賞与は,一番最後にもらったものの明細書を添付します。
報酬の場合には,申立て直近2か月分の領収書や支払いの明細書などを添付することになります。
また,給与明細のほか,過去2年分の確定申告書の写し又は源泉徴収票の写しを添付する必要があります。
給与明細や賞与明細,源泉徴収票などは,使用者・会社から受け取っているはずです。しかし,もしなければ,勤務先に請求して再発行してもらうことになります。
確定申告書も控えがあるはずですが,紛失したという場合もあるかもしれません。その場合には,税務署で納税証明書を発行してもらうことになるでしょう。ただし,手数料はかかります。
確定申告書や源泉徴収票が無い場合には,過去2年分の課税証明書(非課税証明書)を添付します。課税(非課税)証明書は,各市区町村の役所で入手することになります。
まとめると,以下の資料の添付が必要ということです。
- 申立て直近2か月分の給与明細書(または報酬の領収書や明細書)
- 申立て前直近の賞与明細書
- 過去2年分の確定申告書の写し又は源泉徴収票の写し(あるいは,過去2年分の課税証明書または非課税証明書)
なお,確定申告書または源泉徴収票と課税証明書等を両方添付しても差し支えありません。むしろ,両方添付しておいてよいでしょう。
報酬・賃金を記載する意味
報酬や賃金をもらう権利も債権ですから,資産に該当します。そのため,資産目録に記載することになっています。もっとも,報酬と給料・賞与などの賃金とでは,大分取り扱いが違います。
破産法上,差押禁止債権は自由財産とされています。換価処分が不要だということです。
給料・賞与債権については,その4分の3が差押禁止債権とされています。したがって,その4分の3部分は,自由財産となり,自己破産しても換価処分が不要というわけです。
しかも,東京地裁では,さらに換価処分不要な部分が拡大されています。給料・賞与債権については,明確な基準は公表されていないものの,全額について換価処分不要の取扱いをしてくれています。
これに対し,報酬債権は差押禁止債権ではありません。しかも,上記のような自由財産の拡張の取扱いもなされていません。したがって,全額換価処分が原則となっています。
ただし,報酬であっても,実質的には賃金といえる場合には,自由財産の拡張が認められることもあるでしょう。
また,破産規則上,債務者の収入を示す資料の提出が求められています。報酬・賃金は,その典型的なものですから,資産目録に記載した上,確定申告書等の資料の提出も必要となっているのです。
退職金請求権・退職慰労金
退職金とは,労働者などが退職する際に使用者等から支給される金銭のことです。退職金・退職慰労金とありますが,名称が違うだけで,いずれも同じものと考えておいて差し支えないでしょう。
勤務先に退職金制度がある場合には,資産目録明細「退職金請求権・退職慰労金」への記載が必要です。
「退職金請求権・退職慰労金」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 種類:退職金の種類を記載します。勤務先からの退職金であれば「退職金」「退職慰労金」などと記載しておけば足ります。確定拠出年金型退職金や中小企業退職金共済等による退職金などであれば,その旨を記載します。
- 総支給額(見込額):自己破産申立て時点において退職したと仮定した場合の退職金支給見込額を記載します。定年まで勤め上げた場合の金額ではありません。
- 8分の1(4分の1)相当額:総支給見込額の8分の1の金額を計算して記載します。申立て時点ですでに退職しており,ただ支給が未了という場合には,4分の1の金額を記載します。
退職金の種類
東京地裁本庁の資産目録では,退職金の「種類」の記載が必要です。
退職金の種類とはどういう意味なのかは分かりにくいのですが,通常の「退職金」なのか,中小企業退職金共済等による退職金なのかなどを記載すれば足りるでしょう。
確定拠出年金型の退職金であるかどうかなども,この「種類」欄に記載することになるでしょう(なお,確定拠出年金型退職金は全額が自由財産となります。)。
退職金の総支給見込額・8分の1相当額
東京地裁本庁の資産目録には,退職金の「総支給額(見込額)」を記載する必要があります。
ここでいう支給額とは,定年まで勤め上げて退職した場合の金額という意味ではありません。あくまで,自己破産申立て時に退職したと仮定した場合にいくら支払われるのかという意味の支給額です。
したがって,自己破産申立て時において退職したと仮定した場合の支給見込額を記載します。
記載する金額は,何の根拠もない予想金額ではもちろん許されません。
通常は,勤務先から,自己破産申立て予定日等に退職したらいくら支払われるのかを計算してもらい,その計算書と支払い予定額の証明書を発行してもらい,その金額を記載する必要があります。
なお,東京地裁本庁の場合には,総支給見込額のほか,その支給見込額の8分の1の金額も記載することになっています。
これは,後述のとおり,東京地裁においては退職金見込額の8分の1相当額が20万円未満の場合には全額について換価処分不要,20万円以上の場合でもその金額だけ納付すれば足りるものとされているからです。
ただし,破産手続中に退職することが予定されている場合等には,8分の1基準は適用されず,退職金見込額の4分の1の金額の納付が必要となるため,その場合には,8分の1ではなく4分の1相当額を記載することになります。
退職金請求権・退職慰労金の添付資料
退職金請求権・退職金に関する疎明資料としては,退職金の金額を明らかにできるものが必要です。
具体的には,勤務先に,自己破産申立て予定日現在で退職した場合にどれくらい退職金が出るのかを計算してもらって,その金額を証明する計算書および証明書を発行してもらい,それを添付することになります。
勤務先から証明書が発行してもらえない場合は,就業規則や退職金規程などに基づいて計算する必要があります。
退職金については,就業規則や退職金規程等に退職金の金額の計算方法に関する規定があるはずです。これらをもとにして,退職金金額を計算するのです。
そして,その計算式を報告書にして提出します。同時に,その計算の根拠となる就業規則・退職金規程等も疎明資料として提出します。
なお,会社によっては退職金制度がないというところもあるでしょう。その場合には,無いこと明らかにするために,就業規則等の資料を提出することがあります。
退職金請求権・退職慰労金を記載する意味
退職金をもらう権利も債権ですから,資産として扱われます。したがって,資産目録に記載する必要があります。
この退職金債権の4分の3部分は,賃金債権と同様,差押禁止債権とされています。したがって,退職金債権の4分の3は自由財産となり,自己破産をしても換価処分が不要です。
東京地裁本庁・立川支部では,さらに自由財産の範囲が拡張されており,退職金債権の8分の7は換価処分が不要とされています。
しかも,8分の1相当額が20万円以下であれば全額について換価処分不要とされています。
ただし,すでに退職している場合や自己破産申立て後の近い時期に退職することが決まっている場合には8分の1にはなりません。これらの場合には,原則どおり4分の1の換価処分が必要となります。
というのも,前記のように換価が必要な範囲を8分の1にしているのは,退職金が本当にもらえるかが未定だからです。
退職金をもらう前に会社が倒産してしまうかもしれません。不況で退職金が減額される可能性もあります。
退職金請求権は,このような未定な要素のある資産であるため,全額または4分の1を換価しなければならないとするのが酷であることから,8分の1とされたのです。
ところが,すでに退職している場合や近い将来退職することが確実な場合には事情が異なります。退職金が,近い将来,満額もらえることはほぼ確実であるため,8分の7まで自由財産とする必要性がないのです。
そのため,原則どおり4分の1を破産財産に入れなければなりません。
貸付金・売掛金等
自己破産申立て時点において貸付金や売掛金等の請求権がある場合には,資産目録明細「貸付金・売掛金等」への記載が必要です。
つまり,誰かにお金を貸していたり,まだ売買代金等の売掛金を受け取っていないなど,何らかの金銭が入ってくる予定がある場合に記載が必要となるということです。
もちろん貸付金や売掛金だけではありません。他にも債権を持っているのであれば,ここに記載します。
売掛金や貸付金以外の債権としてはさまざまなものがありますが,代表的なものとしては,例えば,損害賠償請求権や養育費の請求権などもここに記載することになります。
なお,報酬債権は「報酬・賃金」に記載することになります。ただし,報酬のうちでも定期的でないイレギュラーなものは,「売掛金・貸付金等」に記載してもよいでしょう。
「貸付金・売掛金等」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 相手方:請求権の相手方の氏名・名称を記載します。住所や連絡先を記載しておく場合もあります。
- 金額:請求権の金額を記載します。
- 発生時期:請求権が発生した年月日を記載します。通常は,支払日ということになるでしょう。
- 回収見込額:回収可能な見込み金額を記載します。回収見込みがない場合には「0円」または「回収不能」などと記載します。回収見込みが不明の場合には「不明」などと記載します。
- 回収できない理由:請求金額の一部または全部について回収見込みが無い場合には,その理由を記載します。
売掛金・貸付金等の相手方
東京地裁本庁の資産目録では,売掛金・貸付金等の「相手方」の記載が必要です。
貸付金・売掛金等の記載については,まず,誰に対する請求権なのかを明らかにする必要があります。そこで,請求権の「相手方」の氏名・名称を記載することになります。
氏名や名称だけでなく,相手方の住所・所在地,連絡先なども記載しておいた方が親切でしょう。
売掛金・貸付金等の金額
東京地裁本庁の資産目録では,売掛金・貸付金等の「金額」の記載が必要です。できる限り正確な金額を記載すべきです。
売掛金・貸付金等の発生時期
東京地裁本庁の資産目録では,売掛金・貸付金等債権の「発生時期」の記載が必要です。
売掛金や貸付金の場合,契約において支払期日が定まっていることが多いでしょう。その場合には,契約で定められた支払期日の年月日を記載することになります。
支払期日が決められていない場合には,債権の内容にもよりますが,基本的には,契約が成立した時が債権の発生時期となります。
損害賠償債権であれば,損害が発生した日が発生時期ということになるでしょう。
売掛金・貸付金等の回収見込額
東京地裁本庁の資産目録では,売掛金・貸付金等の「回収見込額」の記載が必要です。
債権額と回収見込額が常に一致するとは限りません。相手方に抗弁が認められる可能性がある場合や相手方の資力によっては,債権の一部または全部の回収が難しいということもあるからです。
回収見込みがある場合には,その見込額を記載します。回収見込みがない場合には,0円(ゼロ円)または回収見込み無しなどと記載することになります。
売掛金・貸付金等を回収できない理由
東京地裁本庁の資産目録では,売掛金・貸付金等「回収できない理由(回収不能の理由)」の記載が必要です。
前記のとおり,債権があったとしても,その一部または全部を回収できない可能性があるという場合もあります。
回収の見込みが無いという場合には,その理由の記載が必要となります。相手方が倒産した,所在不明である,一部時効によって消滅しているなどの理由を記載します。
なお,相手方の情報については,住所・所在地や連絡先等も記載しておいた方がよいでしょう。
売掛金・貸付金等の添付資料
売掛金・貸付金等の一番の疎明資料は,やはり裁判書でしょう。判決書や裁判上の和解調書などです。それがない場合は,契約書類や合意書などを添付することになります。
これらが無い場合が大変です。単なる口約束の場合,本当に請求権があるのかどうか証明できません。
仮に,破産管財人が相手方に請求しようとしても,証拠がなければ請求は認められません。したがって,何らかの証拠となる資料を提出しなければなりません。
もっとも,それすらも無い場合にはどうしようもありません。せめて事情を記した陳述書等を提出するほかないでしょう。
場合によっては,証拠不十分で回収不能とすることもあり得ます。もっとも,これは専門的な法的判断が必要です。破産管財人や裁判所が判断すべき事項です。
したがって,回収不能とまで記載する必要はないかもしれません。せいぜい回収の見込みは不明くらいに留めておくのが無難でしょう。
相手方が破産しているために回収見込みが無いという場合には,相手方が破産したという資料の提出が必要です。資料が無い場合には,破産の事件番号等を調査し,報告書にして提出することになるでしょう。
売掛金・貸付金等を記載する意味
売掛金・貸付金などの債権も資産ですから,やはり,資産目録への記載は必要です。
資産目録に記載された情報をもとにして,破産管財人がその売掛金や貸付金等を回収することになります。
積立金等(社内積立,財形貯蓄,事業保証金等)
自己破産申立て時点において社内積立・財形貯蓄・事業保証金などの積立金がある場合には,資産目録明細「積立金等」への記載が必要です。
社内積立,財形貯蓄,事業保証金等が挙げられていますが,これだけに限るものではありません。
要は,定期的に積立しておき,解約等をすれば最終的に返金される性質のものです。そのようなものがあれば,記載が必要となります。
「積立金等」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 種類:積立金の種類を記載します。「社内積立」「財形貯蓄」「事業保証金」などと記載します。
- 金額:申立て時において解約した場合に返金される積立金の金額を記載します。
- 開始時期:積立を開始した年月日を記載します。
積立金等の種類
東京地裁本庁の資産目録では,積立金等の「種類」の記載が必要です。
前記の「財形貯蓄」「社内積立」「事業保証金」などです。会社によっては,特別な名称があるかもしれません。その場合には,その名称を記載しても良いでしょう。
また,会社や勤務先とは関係なく,積み立てをしているような場合も,当然,記載が必要となります。
ただし,預金口座等での積み立て(積立預金)などは「預金・貯金」欄に記載します。
積立金等の金額
東京地裁本庁の資産目録では,積立金等の「金額」の記載が必要です。
ここには積立をしている金額を記載します。これは,当然,自己破産申立て時点での金額です。最終的な積立金額ではありません。
積立金額がそのまま返ってくるわけではなく,一定の手数料等が引かれるという場合に,積立金額を書くべきか返金見込額を書くべきかについては特に指示はありませんので,どちらを記載しても問題はないでしょうが,積立て金額を記載した上で,実際の返金見込額も記載しておいた方が分かりやすいでしょう。
積立ての開始時期
東京地裁本庁の資産目録では,積立金等の積立ての「開始時期」の記載が必要です。
その積立てを開始した年月日を記載します。資料などを確認して,できる限り正確な年月日を記載する必要があります。
積立金等の添付資料
積立金等については,その積立金に関連する疎明資料を提出します。積立金等は,給与明細に記載がある場合があります。その場合には,その給与明細等を添付します。
給与明細とは別に,積立金についての明細や履歴が発行される場合もあります。その場合には,その明細等を添付することになります。
積立制度についての契約書や規約またはパンフレットなどがある場合には,それらも資料として添付することもあるでしょう。そして,それに基づいて自ら総額を計算します。
何も資料がないという場合には,積立先,社内積立であれば会社に,証明書を発行してもらうことになります。そして,その証明書を添付します。
なお,証明書等が発行されないという場合もあり得ます。その場合には,積立金について規定した契約書や規則等を提出します。
積立金等を記載する意味
積立金等は積立てを解約すれば,それまで積立てた金銭等が返ってきます。つまり,積立金等の返還請求権という債権があるということです。債権も資産ですから,やはり資産目録への記載が必要となってくるのです。
保険(生命保険,傷害保険,火災保険,自動車保険等)
自己破産申立て時点において保険に加入している場合または申立てから過去2年以内に失効し未解約の保険がある場合には,資産目録明細「保険(生命保険,傷害保険,火災保険,自動車保険等)」への記載が必要です。
ここでいう保険とは,民間保険会社との間の任意保険です。国民健康保険,社会保険,自賠責保険などは含まれません。
民間の保険であれば,生命保険だけに限らず,傷害保険,医療保険,火災保険,地震保険,自動車保険なども記載が必要です。
また,保険料未払いによって失効している保険であっても,解約をしていないものについては,失効したのが自己破産申立てから過去2年以内であれば,保険欄への記載が必要とされています。
解約した保険は「保険」欄への記載は不要ですが,解約したのが申立てから2年以内である場合には,後記の「過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産」欄への記載が必要です(解約保険については,解約返戻金が20万円未満であっても記載が必要とされています。)。
「保険」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 保険会社名:保険契約を締結している保険会社の名称を記載します。なお,保険会社の名称に加えて,保険の種類を記載する場合もあります。
- 証券番号:保険証券番号を記載します。
- 解約返戻金:自己破産申立て時点における解約返戻金の金額を記載します。
保険会社名
東京地裁本庁の資産目録では,保険契約の相手方である「保険会社名」の記載が必要です。
保険会社名を記載するのであって,保険商品名ではありません。ただし,同じ保険会社との間で複数の保険をかけている場合には,保険会社名と保険商品名や保険の種類なども記載することもあります。
証券番号
東京地裁本庁の資産目録では,当該保険の「証券番号」の記載が必要です。
保険契約を締結すると保険証券が交付されます。証券番号は,この保険証券に記載されています。保険証券を確認して,正確な番号を記載する必要があります。
解約返戻金額
東京地裁本庁の資産目録では,「解約返戻金額」の記載が必要です。
解約返戻金(かいやくへんれいきん)とは,保険を解約した場合に返還される金銭のことです。事故等に遭ったときに支払われる保険金とは違います。
解約返戻金は,基本的には積立型の保険の場合に返還されるものですが,掛け捨て型であるからといって絶対に保険返戻金がないわけではありません。掛捨て型でも少額ですが解約返戻金があることもあります。
記載すべき解約返戻金の金額とは,満期などになった場合に返還される予定額ではなく,自己破産申立て時点で解約したと仮定した場合の返戻金額です。
ある特定の日に解約するとどのくらいの解約返戻金額となるかは,保険会社に問い合わせれば計算をしてもらえますので,その金額を記載することになります。
解約返戻金が発生しない場合には,「0円」または「無」などと記載することになります。
契約者貸付けがある場合
なお,1つ注意すべきことがあります。それは,いわゆる契約者貸付けがある場合です。
積立型の保険は,解約返戻金の範囲内で金銭貸付をしてくれる場合があります。これを利用して借入れをしている場合には,当然返戻金は減額されます。
契約貸付けがある場合,どのように記載すべきかは1つの問題です。
1つは,返戻金総額から貸付額を差し引いた金額を記載する方法です。もう1つは,返戻金の総額を「保険」欄に記載します。その上で,貸付は債権として扱い,債権者一覧表に記載する方法です。
原則としては,後者の方法が正しいかもしれません。しかし,通常,貸付金と解約返戻金は相殺されるのが通常です。そうなると,差し引き金額を,解約返戻金額として記載してもよいと思います。
もっとも,その場合は,差し引いた結果である旨の注釈は記載しておくべきでしょう。
解約した保険の記載
前記のとおり,東京地裁本庁では,自己破産申立てから過去2年以内に失効した保険は,解約をしていない限り,保険欄への記載が必要です。
解約した保険については,東京地裁本庁の場合,「保険」欄への記載は不要です。
ただし,自己破産申立てから過去2年以内に解約したものであれば,解約返戻金の金額にかかわらず「過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産」欄への記載が必要となります。
保険の添付資料
保険については,解約返戻金の有無にかかわらず,保険証券の添付が必要です。紛失してしまった場合には,保険会社に再発行してもらうことになります。
解約返戻金が無いことが保険証券や保険約款に規定されている場合には,解約返戻金が無いことの記載のある保険証券・保険約款を疎明資料として提出します。
他方,解約返戻金がある場合(または有るか無いかが不明な場合)には,保険会社から解約返戻金の金額の証明書(または解約返戻金が無いことの証明書)を発行してもらい,それを添付する必要があります。
保険会社が発行してくれない場合というのは通常あり得ませんが,仮に発行できない場合には,自分で計算する他ないでしょう。なお,契約者貸付けの場合がある場合には,それを考慮に入れる必要があります。
保険を記載する意味
保険に加入していることがどうして財産となるのかというと,保険には,保険契約の解約返戻金があるからです。
前記のとおり,解約返戻金とは,保険契約を解約したときに返ってくる金銭のことです。保険料が高額であったり,保険契約が長期間に及ぶ場合などには,それなりの金額になる場合もあります。
この解約返戻金の返還請求権も資産となります。そのため,保険も資産目録に記載しなければならないのです。
保険解約返戻金は,破産法上の自由財産ではありません。しかし,東京地裁本庁・立川支部では,加入しているすべての保険の解約返戻金見込み額合計が20万円未満の場合には,解約も換価も不要とされています。
逆に,解約返戻金見込み額合計が20万円を超える場合には,すべての保険が換価処分の対象となります(ただし,実際には,解約返戻金のあるものだけ解約されるのが通常です。)。
もっとも,保険の場合,再加入が難しいという場合があります。高齢や病気があるなどの理由からです。こういう場合,保険を解約してしまうと取り返しのつかないことになりかねません。
そこで,事情によっては,自由財産の拡張が認められて,保険契約を解約しないで済むこともあります。解約する代わりに返戻金の相当額を支払うことで済むという場合があるのです。
もちろん,これを認めるかどうかは裁判所の判断次第です。
有価証券(手形・小切手,株式,社債),ゴルフ会員権等
有価証券とは,私法上の権利を表象する証券であって,それによって表象される権利の移転または行使が証券の授受によってなされるものをいいます。つまり,権利と証券が一体となっているということです。
権利を譲渡するときは,証券も一緒に譲渡する必要があります。権利を行使するときは,証券を提示しなければなりません。証券だけ手元に残して権利を譲渡したり行使したりはできないのです。
代表的なものは,手形(約束手形・為替手形),小切手,株券,社債券などです。
ゴルフ会員権も,会員証が発行されます。会員証は有価証券とまではいえません。会員証がなくても,会員としての地位に影響はないからです。判例もそのように解しています。
もっとも,実際には会員証が重要です。会員証がないと売る時に買い手がつかないこともあります。会員証がないので,本当に会員権があるのかが信用できないからです有価証券に近いところもあります。
自己破産申立て時点においてこれら有価証券やゴルフ会員権等を持っている場合には,資産目録明細「有価証券(手形・小切手,株式,社債),ゴルフ会員権等」への記載が必要です。
「有価証券・ゴルフ会員権等」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 種類:有価証券等の種類を記載します。例えば,「約束手形」「為替手形」「小切手」「株式」「社債」「ゴルフ会員権」などです。同種のものが複数ある場合には,振出人・手形債務者名やゴルフクラブ名なども記載することがあります。
- 取得時期:当該有価証券等を取得した年月日を記載します。
- 担保差入:当該有価証券を担保として差し入れている場合には「有」に,していない場合には「無」にチェックを入れます。
- 評価額:申立て時における有価証券等の評価額を記載します。
有価証券等の種類
東京地裁本庁の資産目録では,有価証券などの「種類」の記載が必要です。
有価証券の種類としては,「約束手形」「為替手形」「小切手」「株式」「社債」などを記載します。ゴルフ会員権の場合には,「ゴルフ会員権」と記載します。
同種の有価証券などがある場合には,それぞれを識別するため,誰に対する手形なのか,どの会社の株券なのか,どのゴルフクラブの会員権なのかなども記載しておくとよいと思います。
取得時期
東京地裁本庁の資産目録では,有価証券などの「取得時期」の記載が必要です。
当該有価証券の「取得時期」を,取得した年月日で記載します。出来る限り具体的に記載する必要があるのは言うまでもありません。
もっとも,これは証券等に記載されているのが大半です。したがって,正確に記載することは難しくないはずです。
担保差入
東京地裁本庁の資産目録では,有価証券などの「担保差入」の有無の記載が必要です。
有価証券や会員権は,何らかの債権の担保として差し入れられていることがあります。例えば,質権などが設定されている場合があります。
そのため,「担保差入」の有無についても記載します。担保が付いている場合は「有」にチェックし,付いていない場合は「無」にチェックをします。
どのような担保が設定されているかも記載しておくと親切でしょう。
評価額
東京地裁本庁の資産目録では,有価証券などの「評価額」の有無の記載が必要です。
一番やっかいなのは,この評価額です。手形や小切手の場合は,基本的にその額面額を記載すれば足ります。しかし,株券などは評価が難しいものもあります。
上場会社ならば,自己破産申立て時点(またはそれに近い時期)の時価額を評価額とします。しかし非上場会社の場合は,算定が非常に困難です。公認会計士等の専門家に鑑定を依頼するのがよいでしょう。
ゴルフ会員権は,一般的な相場を調べることになります。ゴルフ会員権買取業者に査定をしてもらうという方法もあります。それをもとにして評価額を記載することになります。
有価証券・ゴルフ会員権等の添付資料
有価証券・ゴルフ会員権等については,その有価証券や会員証の写し(コピー)を添付します。裏面も忘れずにコピーしましょう。
担保差入がされている場合は,その担保権設定に関する資料も添付します。例えば,質権設定の契約書等が必要となってきます。
また,評価額の根拠となる資料も添付します。上場会社であれば,公開されている株価を明らかできる書類を用意します。したがって,新聞や取引所のホームページ写しなどでよいでしょう。
非上場会社の場合には,鑑定書があればそれを添付します。なければ,自らの計算を記載した報告書等を添付します。
ゴルフ会員権は,市場価格の掲載された資料を提出する必要があります。買取業者の査定書やホームページの写しなどが考えられます。無論,正式な鑑定書があれば,それにこしたことはありません。
有価証券・ゴルフ会員権等を記載する意味
有価証券やゴルフ会員権等は売却すれば換金できます。資産価値があるものであるということは間違いないでしょう。そのため,資産目録への記載が必要となるのです。
ただし,必ずしも価値があるとも限りません。特にゴルフ会員権などは,ほとんど価値がなくなってしまっていることも少なくありません。
したがって,資産目録への記載は必要ですが,だからといって,必ずしも換価処分されるわけでもないということです。
自動車・バイク等
自己破産申立て時点において自動車やバイクを持っている場合には,資産目録明細「自動車・バイク等」への記載が必要です。
自動車には,普通乗用自動車だけではなく,軽自動車やトラックなどももちろん含まれます。
自転車はどうなのかというと,これは,通常,記載しないように思われます。というのも,売却価値がほとんどないのが普通だからです。
逆に言うと,売却価値がある場合は記載すべきでしょう。もっとも,相当の高級自転車に限られるとは思います。
「自動車・バイク等」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 車名:自動車等の車名を記載します。車検証上の社名は製造メーカー名しか記載がありませんが,この車名欄には,識別できるように,メーカー名のほか,通称名を記載するのが通常です。型式や自動車登録番号(ナンバー)等を記載することもあります。
- 購入金額:当該自動車等を購入した金額を記載します。
- 購入時期:当該自動車等を購入した年月日を記載します。
- 年式:当該自動車等の年式を記載します。
- 所有権留保:当該自動車等に所有権留保が設定されている場合には「有」に,されていない場合には「無」にチェックを入れます。
- 評価額:当該自動車の査定評価額を記載します。
自動車・バイク等の車名
東京地裁本庁の資産目録では,自動車・バイクなどの「種車名」の記載が必要です。
車検証上の車名には製造メーカーの名称しか記載がありませんので,どのような自動車などなのかを識別できるよう,車種や自動車登録番号(ナンバー)も記載するのが通常です。
同じ車種の車両を複数台持っている場合には,メーカー・車種・自動車登録番号(ナンバー)だけでなく,車台番号等も記載する必要が出てくるでしょう。
購入金額・購入時期
東京地裁本庁の資産目録では,自動車・バイクなどの「購入金額」と「購入時期」の記載が必要です。
購入金額や購入時期の年月日は,できる限り具体的に記載します。購入した際の契約書等で確認してください。
年式
東京地裁本庁の資産目録では,自動車・バイクなどの「年式」の記載が必要です。
年式とは,要するに,当該自動車等の初年度登録年のことです。車検証の初年度登録日を見て記載します。
所有権留保
東京地裁本庁の資産目録では,自動車・バイクなどの「所有権留保」の有無の記載が必要です。
所有権留保とは,売買契約をしたにもかかわらず,代金を全部払うまでは,売主に所有権が残ったままになっているというものです。
車検証の所有者に売主の名称が記載され,務者名が使用者として記載されている場合があります。この場合,その自動車に所有権留保がつけられている可能性が高いといえるでしょう。
所有権留保が設定されている場合には「有」にチェックをし,設定されていない場合には「無」にチェックをします。
評価額
東京地裁本庁の資産目録では,自動車・バイクなどの「評価額」の記載が必要です。
日本自動車査定協会で査定してもらうのが最も確実ですが,費用がかかります(5000円~1万0000円程度)。中古自動車買取業者などに査定してもらうこともあります。
日本自動車査定協会による査定の場合では1通で足りますが,自動車買取業者等による査定の場合には2通以上添付した方が確実でしょう。
自動車・バイク等の添付資料
自動車・バイク等については,車検証の写し(コピー)を添付する必要があります。登録事項等証明書の写し(コピー)でも代用可能です。
なお,250CC以下のバイクは車検証がありません。したがって,そのようなバイクには,軽自動車届出済証などで代用することになります。
また,購入時の書類も添付します。購入の際に取り交わした契約書を添付します。紛失した場合には,領収書等で代用するほかないでしょう。
評価額については,査定書を資料として添付します。査定がない場合には,インターネット等で調べます。そして,そのページをプリントアウトしたものを添付します。
なお,所有権留保があっても,所有者が所有権放棄する場合があります。所有権留保は,いってみれば担保です。代金未払いに備え,いつでも取り戻せるようにしておくことが目的なのです。
ところが,取り戻しても意味がないという場合があります。自動車等の価値が著しく低いという場合です。こういう場合,所有者の方で所有権を放棄することがあるのです。
所有権放棄があった場合には,その旨を記載した書面を発行してもらいます。そして,その放棄書を添付します。
自動車・バイク等を記載する意味
自動車やバイクなどが資産に該当するというのは分かりやすいでしょう。したがって,資産目録への記載が必要とされているのです。
この自動車やバイクは,破産法上の自由財産とされていません。したがって,原則としては換価処分の対象となる財産です。
もっとも,東京地裁の換価基準では,売却見込み額が20万円以下の自動車・バイクについては自由財産として取り扱い,換価処分が不要とされています。
過去5年間において,購入価格が20万円以上の財産
自己破産申立てから過去5年間以内において,20万円以上の物を購入したことがある場合には,資産目録明細「過去5年間において,購入価格が20万円以上の財産」への記載が必要です。
例えば,貴金属・美術品・パソコン・着物等が挙げられています。もちろんこれらに限られるわけではありません。
また,購入した物品が残っているかいないかにかかわらず,5年以内に20万円以上の物を購入したのであれば,記載が必要です。
「過去5年間において,購入価格が20万円以上の財産」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 品名:購入した物の品名を記載します。「指輪」「絵画」「パソコン」「着物」「テレビ」などです。
- 購入金額:当該物品の購入金額を記載します。
- 取得時期:当該物品を購入した年月日を記載します。
- 評価額:当該物品の現在評価額を記載します。
品名
東京地裁本庁の資産目録では,過去5年以内に購入した物品の「品名」の記載が必要です。
一般的な品名,「指輪」「絵画」「パソコン」「着物」「テレビ」などでよいと思います。商品名まで記載しておけば,より良いでしょう。
購入金額
東京地裁本庁の資産目録では,過去5年以内に購入した物品の「購入金額」の記載が必要です。
実際にその物品を購入した金額を記載します。当時の契約書等を確認してできる限り正確な金額を記載すべきでしょう。
取得時期
東京地裁本庁の資産目録では,過去5年以内に購入した物品の「取得時期」の記載が必要です。
取得時期とは,その物品を購入するなどして取得した年月日です。これも,当時の契約書等の資料を確認しておく必要があります。
評価額
東京地裁本庁の資産目録では,過去5年以内に購入した物品の「評価額」の記載が必要です。
評価額は,自己破産申立て時点における評価額です。買取専門店などで査定をしてもらうことになります。
もっとも,物によっては鑑定が必要なものもあるかもしれません。美術品などは,専門家でなければ評価できないこともあるからです。
現存していない物については査定をすることは困難ですが,処分した当時の価値や現在の予想価値などが分かるのならば,それを記載すべきでしょう。
過去5年間に購入した20万円以上の財産の添付資料
過去5年間において購入価格が20万円以上の物については,当該物品を購入した際の契約書や見積書を添付します。紛失している場合は,領収書などを添付することになるでしょう。
契約書等の書類がまったくない場合には,銀行取引で売買をしたのであれば,通帳の明細で代替することになるでしょう。
また,現状を示すために写真などを添付することもあります。それによって,物の価値がある程度判明するということもあり得ます。
評価額については,査定書を添付します。買取業者の査定書などが通常です。場合によっては,鑑定書などを添付することもあるかもしれません。
または,インターネットで相場を調べるということもあり得ます。その場合は,当該ページをプリントアウトしたものを添付します。
過去5年間に購入した20万円以上の財産を記載する意味
過去5年間に購入した物で現存している物は,当然,資産です。したがって,資産目録への記載が必要となります。
とはいえ,すべての財産を記載するのは現実的に不可能です。また,処分するほどの価値もない物を記載するのも無意味です。そこで,20万円以上の物に限定されています。
この20万円以上という金額にも意味があります。東京地裁では,いわゆる「20万円基準」が採用されていると言われています。20万円以上の価値かどうかが換価処分の分水嶺となるということです。
購入金額が20万円以上であれば,現在の資産価値としても20万円以上となる可能性が高いといえます。つまり,換価処分の対象となる可能性があるということです。
そのため,過去5年間で購入した財産のうちで20万円以上,という限定が付されているのです。
高価品の具体例としては,貴金属・美術品・パソコン・着物等が挙げられていますが,もちろんこれらに限られるわけではありません。
また,免責不許可事由の問題も関係します。高価品の購入が債務増大に関係していることがあり得ます。これは,浪費による債務増大という免責不許可事由に当たり得ます。
このように,過去5年以内に購入した物の記載は免責の調査の意味合いも兼ねていますから,すでに現存していない場合であっても記載が必要とされているのです。
過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産
自己破産申立てから過去2年間以内において,換価額または評価額が20万円以上の財産を処分したことがある場合には,資産目録明細「過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産」への記載が必要です。
対象となるのは,「換価額」または「評価額」が20万円以上の財産です。20万円以上で換価処分した場合に限らず,換価額が20万円未満であっても,評価額が20万円以上ならば記載が必要となります。
また,処分した財産は物に限られません。金銭を処分(つまり,使ってしまった)場合も記載が必要です。
なお,保険解約返戻金については,例外的に,金額が20万円未満であった場合でも記載が必要とされています。
処分財産が物品の場合
過去2年間に処分した評価額又は処分額が20万円以上の財産が物品である場合は,上記の記載欄への記載が必要です。以下の事項を記載します。
- 財産の種類:処分した物品の種類を記載します。動産であれば,品名等を記載します。不動産であれば,土地・建物の別や,所在地等を記載した方がよいでしょう。
- 換価時期:処分した年月日を記載します。
- 評価額:処分した時の評価額を記載します。
- 換価額:実際に処分して得た金銭の金額を記載します。ただで挙げてしまった場合には,0円と記載することになります。
- 相手方:処分の相手方を記載します。物を売却したのであれば,買主の氏名・名称を記載します。相手方の所在や連絡先を記載する場合もあります。
- 使途:物品を処分して得た金銭を何に使ったのかを記載します。
過去2年間に処分した評価額又は処分額が20万円以上の物品については,処分の際の契約書・領収書等を添付する必要があります。評価をとっていた場合は,その査定書等も添付します。
処分した財産が不動産の場合には,売買契約書のほか,不動産の登記簿の添付も必要です。
また,何に使ったのかが分かる資料の添付も必要です。何かを購入したのであればその契約書等を添付します。
財産の種類
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に処分した「財産の種類」の記載が必要です。出来る限り内容が特定できるように具体的に記載すべきです。
動産であれば,品名や商品名も記載します。特に自動車は,車名・車種等を記載します。
不動産であれば,「土地」「建物」と記載し,特定するために,その所在地も記載しておいた方がよいでしょう。
換価(取得・受領)時期
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に処分した「換価時期」の記載が必要です。
換価時期とは,当該財産を売却などして処分した時期のことです。具体的な年月日を記載すべきです。
評価額
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に処分した物品の「評価額」の記載も必要となります。
過去に処分した物なので,評価をとるのはなかなか厄介です。この評価額は,やはり処分した当時の評価額ということになるでしょう。
換価額
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に処分した物品の「換価額」の記載が必要です。
「換価額」とは,売却代金など物を換価処分した際に実際に得た金額です。
処分の相手方
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に財産を処分した「相手方」の記載が必要です。
物の処分の場合であれば,処分をした相手方の氏名や名称を記載します。例えば,売却処分ならば,売った相手,つまり買主の氏名や名称を記載することになります。
金銭の使途
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に財産を処分して得た金銭の「使途」の記載が必要です。
物を処分して得た金銭や受領した金銭を何に使ったのかを,具体的に記載する必要があります。例えば,「弁護士費用」「破産申立て費用」「生活費」「転居費用」「返済」などです。
より具体的に使途を記載できるのであれば,その方が望ましいことは言うまでもありません。返済の場合には,誰に返済したかも記載する必要があるでしょう。
過去2年間に処分した20万円以上の物品の添付資料
過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産については,処分をした物品を持っていたことを明らかにする資料,処分時の資料が必要です。
動産や不動産の場合は,換価処分した際の売買契約書や領収書を資料として添付します。念のため,不動産の場合は不動産登記簿(登記事項全部証明書)を用意しておいた方がよいでしょう。
使途についても,何に使ったのかが分かるような資料が必要です。これも契約書や領収書等を提出することになるでしょう。
以上の添付資料は,あくまで一般的なものを並べたにすぎません。事案によっては,もっといろいろな資料が必要となる場合もあります。ご注意ください。
処分財産が金銭の場合
金銭債権の場合における換価処分とは,要するに,債権を回収して金銭を受領したということです。20万円以上の金銭債権を回収して金銭を受領した場合に記載することになります。
過去2年間に処分した評価額又は処分額が20万円以上の財産が金銭である場合は,上記の記載欄への記載が必要です。以下の事項を記載します。
- 財産の種類:取得した金銭の種類を記載します。例えば,「定期預金解約」「保険解約返戻金」「退職金」「賞与」「過払い金」「敷金」「離婚に伴う慰謝料」などです。
- 取得時期:金銭を取得した年月日を記載します。
- 取得額:取得した金額を記載します。
- 使途:取得した金銭を何に使ったのかを記載します。
財産の種類
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に受領した金銭の「財産の種類」の記載が必要です。出来る限り内容が特定できるように具体的に記載すべきです。
例えば,よくあるものとしては,以下の金銭があります。
- 保険の解約返戻金
- 定期預金の解約払戻金
- 受領したボーナス
- 受領した退職金
- 受領した敷金
- 離婚に伴う給付
- 過払い金
定期預金や保険であれば「定期預金」「生命保険」等と記載した上で,金融機関名や口座・証券番号を記載します。
ボーナスや退職金であれば「ボーナス」「賞与」と記載し,会社名を記載することもあります。
離婚に伴う給付の場合は,給付の内容を記載します。例えば,「慰謝料」とか「財産分与」などです。あとは,誰からもらったのかを記載しておけば良いでしょう。
過払金も,「過払い金」と記載した上で,貸金業者の名称を記載しておくべきです。
取得時期
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に受領した金銭の「取得時期」の記載が必要です。
具体的な年月日を記載すべきです。過払い金の場合は,実際に回収した年月日を記載するのが通常でしょう。
換価額(処分額)・評価額
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に受領した金銭の「取得額」の記載が必要です。
金銭の場合には,債権回収をして実際に得た金額を記載します。
金銭の使途
東京地裁本庁の資産目録では,過去2年以内に受領した金銭の「使途」の記載が必要です。
受領した金銭を何に使ったのかを,具体的に記載する必要があります。例えば,「弁護士費用」「破産申立て費用」「生活費」「転居費用」「返済」などです。
より具体的に使途を記載できるのであれば,その方が望ましいことは言うまでもありません。返済の場合には,誰に返済したかも記載する必要があるでしょう。
過去2年間に処分した20万円以上の財産の添付資料
過去2年間に換価した評価額又は換価額が20万円以上の財産については,処分をした金銭債権を持っていたことを明らかにする資料,処分時の資料が必要です。
定期預金や保険などは,解約した定期預金の通帳や過去の保険証券があればそれを添付します。金融機関や保険会社に対して過去の支払い証明書を発行してもらうこともあります。
離婚給付・過払金であれば,判決書,和解調書などを添付します。不動産の場合,登記に記載があるはずですので,それを添付します。動産はなかなか資料がないかもしれません。
ボーナスや退職金は,明細や振り込まれた口座通帳の履歴を添付します。支払い証明書のようなものがあれば,なお良いです。
使途についても,何に使ったのかが分かるような資料が必要です。これも契約書や領収書等を提出することになるでしょう。
以上の添付資料は,あくまで一般的なものを並べたにすぎません。事案によっては,もっといろいろな資料が必要となる場合もあります。ご注意ください。
過去2年間に処分した20万円以上の財産を記載する意味
破産手続開始前であっても,債務者が自分の財産を勝手に処分してしまうことが問題となることがあります。すなわち,否認権の行使が問題となるということです。
または,その財産の処分行為が破産財団の価値を減少させてしまうものであったり,偏頗弁済に当たるものであるような場合には,免責不許可事由に該当すると判断されることもあり得ます。
財産を処分してそれを遊興費やギャンブルに使ってしまってような場合も,やはり免責不許可事由に該当すると判断されることがあります。
そこで,これらの調査のため,過去2年間の財産処分の記載が必要となるのです。
もっとも,ここに記載すべき財産は,評価額又は処分額のいずれかが20万円以上の財産に限定されています(前記のとおり,保険解約返戻金は20万円未満でも記載が必要です。)
東京地裁では,引継予納金の金額が原則として20万円とされていることとの関係で,特定の財産については20万円未満であれば換価処分の対象としないという取扱いがなされていることから,20万円という金額が基準となっているのです。
不動産(土地・建物・マンション等)
自己破産申立て時点において不動産を所有している場合には,資産目録明細「不動産(土地・建物・マンション等)」への記載が必要です。
不動産とは,具体的にいえば,土地・建物です。もちろん,マンションも含みます。
所有は,単独所有だけでなく,共有の場合も含みます。また,遺産分割未了の不動産も所有しているものとして扱われます。
「不動産」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 不動産の所在地:不動産の所在地を記載します。登記簿の記載を引用しますが,登記簿上の所在地と住所地が異なる場合には,住所地も記載することがあります。
- 種類:不動産の種類を記載します。「土地」「建物」「借地権付建物」「マンション」などを記載します。
- 備考:当該不動産に関する情報を記載します。共有であればその旨を記載し,共有者の氏名・持分も記載します。担保が設定されている場合には,担保の種類・担保権者の名称・被担保債権の内容・金額等を記載します。賃貸に出している場合にはその旨や賃借人の氏名等を記載します。評価額を記載する場合もあります。
不動産の所在地
東京地裁本庁の資産目録では,所有する「不動産の所在地」の記載が必要です。
不動産の所在地とは,その不動産がどこにあるのかということです。登記簿に記載されている所在地を記載します。
もっとも,登記簿記載の所在地は,実際の住所と異なることがあります。これは,登記簿記載の所在地は登記地番を基礎としているのに対して,住所というものは,住居表示番号を基礎としているからです。
つまり,住所としては「〇丁目〇番地」となっていたとしても,登記上は「〇丁目〇〇〇」などとなっていることがあるということです。こういう場合は,住所も記載しておくといいかもしれません。
不動産の種類
東京地裁本庁の資産目録では,所有する不動産の「種類」の記載が必要です。
不動産の種類とは,「土地」なのか「建物」なのかを記載するということです。マンションの場合には「マンション」,借地権付き建物であれば「借地権付き建物」と記載します。
備考欄に記載する事項
東京地裁本庁の資産目録では,「備考」欄が設けられています。
備考欄には,単独所有か共有か,抵当権が設定されているかどうかや差押等がなされているかどうかなど当該不動産に関わる情報を記載することになります。
共有とは,1つの不動産を何人かで所有している場合のことをいいます。共有の不動産である場合には,共有であること,共有者は誰か,各共有者の持分の割合などを記載することになります。
抵当権が設定されている場合,抵当権者は誰か,その抵当権が担保している債権(被担保債権)の金額はいくらなのかなどを記載します。
差押えや仮差押えがすでになされている場合には,差押え等がなされていること,差押え等をした債権者は誰か,差押え等を許可した裁判所の名称,差押え等の裁判の事件番号などを記載することになります。
また,不動産がすでに競売にかけられているという場合もあるでしょう。その場合には,競売にかけられていること,競売手続をしている裁判所の名称,競売事件の事件番号などを記載します。
加えて,不動産の評価金額を記載しておくと便利です。これには査定額を記載することになります。場合によっては固定資産評価額を記載するということもあるでしょう。
不動産を賃貸に出しているという場合であれば,賃貸借契約の内容,賃借人(借主)の氏名・名称,賃料の金額等を記載します。
不動産の添付資料
不動産については,不動産登記簿の謄本を添付する必要があります。不動産登記簿は,正式には「登記事項証明書」といいます。
この登記事項証明書には,全部事項証明書と一部事項証明書というものがあります。これらは,不動産に関する内容の全部を記載しているかどうかによって異なります。
添付すべきなのは,全部事項証明書の方です。この不動産全部事項証明書(登記簿)謄本は,法務局で入手することができます。
また,固定資産評価証明書も添付しておけば,どのような不動産を持っているのか,最低限度の評価額がどのくらいないのかが分かるので,便利です。
次に,評価額を示す資料の添付が必要です。一般には,上記の固定資産評価証明書ではなく,不動産業者などに査定を依頼して,査定書を添付します。
東京地裁では,大手不動産業者の査定書2社分,または,大手1社と中小不動産業者の査定2社分が必要とされています。不動産鑑定士による鑑定書であれば,1通で足りるでしょう。
なお,1.5倍以上のオーバーローンの場合には,オーバーローン上申書を添付します。オーバーローンとは,不動産の評価額よりも抵当権等の被担保債権の金額の方が大きい場合のことを意味します。
1.5倍以上とは,被担保債権額が不動産査定額の1.5倍以上あるということです。この場合には上申書を作成して添付します(特に同時廃止の申立ての場合。管財事件の場合は添付が必須ではありません。)。
このオーバーローン上申書は,東京地裁本庁では定型書式があります。それに従って作成すれば足ります。
不動産を記載する意味
不動産は,個人破産において最も高価で重要な財産といってもいいでしょう。換価できれば,相当の配当原資を確保することができるからです。そのため,資産目録への記載が必要となります。
>> 自己破産すると所有不動産(土地・建物)を処分されるのか?
相続財産
自己破産申立てをする以前に相続を受けたことがある場合には,資産目録明細「相続財産」への記載が必要です。
親や配偶者の方などが亡くなった場合,相続が発生します。
相続が発生すると,亡くなった方が生前持っていた財産は,相続を受けることができる人(こういう人のことを「法定相続人」といいます。)に受け継がれることになります。
自己破産を申し立てる以前に誰かの財産を相続した経験がある場合には,相続財産欄への記載が必要です。
この相続財産については,時期的な制限が定められていません。したがって,何年前のことであっても,相続をしたことがあるのであれば記載が必要ということになります。
また,相続放棄や遺産分割をしているか否かにかかわらず,記載は必要です。
「相続財産」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 被相続人:被相続人の氏名を記載します。被相続人とは,相続財産を遺して亡くなった人のことです。
- 続柄:被相続人と申立人債務者ご自身との身分関係を記載します。
- 相続時期:相続開始の年月日(被相続人が亡くなった日)を記載します。
- 相続した財産:相続した財産の内容を記載します。なお,相続財産が不動産である場合には,前記「不動産」欄に記載します。
遺産相続等未了の場合
当職の経験上,相続財産は個人の破産においても非常に大きな問題となることがあります。問題となりやすいのは,相続が発生した後に,遺産分割や相続放棄などの措置をとっていなかった場合です。
相続は,被相続人が亡くなれば法律上当然に発生します。被相続人が亡くなると,その財産は自動的に相続人の受け継がれます。そのため,自分の気付かないうちに財産を持っている状態になっているのです。
相続人が数人いる場合,財産財産は原則として共有になります。複数の相続人が共同で1つの財産を持っているという状態になるわけです。
そういう状態で,その中の1人が破産したとします。そうすると,その破産者の共有持分は換価処分の対象になります。問題となりやすいのは,こういう場合です。
例えば,Aさんは土地・建物を所有し,妻のBさんとそこに住んでいました。子どものCさんは別の場所に住んでいました。あるとき,Aさんが亡くなったとします。
この土地建物は,妻のBさんと子どものCさんに相続されます。持分は,BさんとCさんで2分の1ずつです。
BさんもCさんは遺産分割や相続放棄をしませんでした。そして,Bさんは,Aさんの死後もそのまま,そこに住んでいました。
この状況でその後,Cさんが破産したとします。土地建物の2分の1は換価処分されてしまいます。土地建物の半分は他人のものとなってしまう可能性があるのです。
そうなると,そこに住んでいるBさんが困ったことになるおそれが出てきます。出て行けとまでは言われないかもしれませんが,新しい買主から2分の1分の地代等を支払うように請求される可能性はあります。
特にBさんもCさんも相続ということを考えていない場合は,寝耳に水ということになってしまうかもしれません。
かといって,それは困るということで,自己破産申立てをしようとする直前に無理やり遺産分割をして,自分の持分を他の相続人に譲ってしまうということも問題となります。
遺産分割とは言え,人に財産を処分してしまうことに違いはありません。そのため,否認権行使の対象となる可能性があります。
他方,相続放棄をすることは個人の自由ですから自己破産申立て前でも放棄をすることは可能ですが,相続放棄ができるのは相続が開始したのを知ってから3か月間だけです。
3か月しか期間がありませんから,気づいた時には相続放棄ができないことになっている可能性があります。
相続が発生した場合は,遺産分割や相続放棄など適切な法的な手続をとっておくことが必要でしょう。
いずれにしても,相続開始後に適切な遺産分割や相続放棄などの措置をとらずに放っておいてしまった場合には,相続財産は法定相続人も共有している状態にあるため,法定相続人が債務者であるときは,その相続財産を資産目録に記載することが必要となるのです。
被相続人・続柄
東京地裁本庁の資産目録では,当該相続の「被相続人」と「続柄」の記載が必要です。
被相続人とは,相続財産を遺して亡くなった人のことです。被相続人欄には,被相続人の氏名を記載します。要するに,誰から相続をしたのかを記載するということです。
次に,続柄欄には,申立人債務者ご自身からみた,被相続人の続柄を記載します。
相続時期
東京地裁本庁の資産目録では,当該相続の「相続時期」の記載が必要です。
相続時期には,相続が開始された時期を記載します。相続は被相続人の死亡によって開始されますから,つまりは,被相続人が亡くなった日付を書くということです。
相続した財産(相続財産)
東京地裁本庁の資産目録では,「相続した財産(相続財産)」の記載が必要です。
相続した財産(相続財産)には,当該争続によってどういう財産を相続したのかを記載します。できる限り具体的な内容を記載した方がよいでしょう。
なお,この相続財産欄に記載する財産は,相続によって得た財産すべてです。自己破産申立て時点で残っていない財産も記載しておく必要があるでしょう。
ただし,手元に残っていないものについては,その旨を記載しておいた方がよいでしょう。
相続財産の添付資料
相続財産については,まずは相続関係を明らかにするための疎明資料として相続人全員が記載されている戸籍謄本を添付します。
また,遺産分割をしている場合には,遺産分割協議書や遺産分割調停調書・審判書などを提出します。相続放棄をしている場合には,相続放棄の受理証明書を添付します。
相続財産がある場合には,その相続財産に関する資料を添付する必要があります。例えば,不動産であれば不動産の登記簿などです。
相続したもののうち,現在も残っているものや過去2年間に処分したものは,基本的に相続財産以外の各項目にすでに記載し,その資料も添付しているはずです。その場合には,二重に資料を添付する必要はありません。
相続財産を記載する意味
相続財産であっても,自己破産申立て時に残っていれば財産ですから,当然,資産目録に記載する必要があります。
もっとも,自己破産申立て時に残っている財産は,相続財産以外の項目にも記載するはずです。それでも別途,相続財産に記載する必要があるのは,やはり相続財産は問題となることが多いからでしょう。
特に,前記のとおり,遺産分割未了の相続財産は,申立人債務者も自分の財産であるという認識がないことがあります。そのため,あえて相続財産の記載が求められているものと思われます。
他にも,相続財産をどのように使ったのかなどが問題となることもあります。
遺産があるはずなのに,どこかへ消えてしまったというような場合には,,財産隠しが疑われる危険性もあります。浪費してしまった場合などもあるでしょう。免責不許可事由の点でも問題となることがあるのです。
このように相続財産は,いろいろと問題が生じる可能性あります。そのため,資産目録への記載が必要とされているのです。
事業設備,在庫品,什器備品等
自己破産申立て時点において,個人事業の事業設備・在庫品・什器備品がある場合には,資産目録明細「事業設備,在庫品,什器備品等」への記載が必要です。
個人事業・自営業を営んでいる(または過去に営んでいた)場合,その事業のために各種の設備や什器備品を購入し,または事業の在庫品などが残っていることがあります。
個人事業者の場合,事業に使っていた財産も個人の財産であることに変わりはありません。そこで,これら事業設備・在庫品・什器備品等を資産目録に記載することになります。
「事業設備,在庫品,什器備品等」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 品名:事業設備等の品名を記載します。
- 個数:当該事業設備等の個数を記載します。
- 購入時期:当該事業設備等を購入した年月日を記載します。
- 評価額:当該事業設備等の申立て時点における評価額を記載します。
品名・個数
東京地裁本庁の資産目録では,個人事業・自営業に関する財産の「品名」と「個数」の記載が必要です。
事業設備等の品名については,できる限り具体的に記載しなければならないことは,言うまでもありません。
次に,その事業設備等の個数を記載します。もちろんこれも正確な数字を記載します。
購入時期
東京地裁本庁の資産目録では,個人事業・自営業に関する財産の「購入時期」の記載が必要です。
個人事業の場合には,帳簿等が残っていると思います。したがって,その帳簿等を確認して,各物品の購入時期を記載します。
評価額
東京地裁本庁の資産目録では,個人事業・自営業に関する財産の「評価額」の記載が必要です。
事業設備等についても,他の財産と同じく買取業者等で査定を取ってもらうことになるでしょう。ただし,事業設備等については特殊なものも多いため,特別な査定業者等を選定しなければならない場合もあります。
事業設備・在庫品・什器備品等の添付資料
東京地裁の自己破産申立書には,確定申告書(給与所得については源泉徴収票など)を添付することになっています。確定申告書は,過去2年分添付します。
事業設備等に関する資料としては,この確定申告書や,詳細の記載がしてある決算書を添付する必要があります。
また,個人事業者の場合,「事業に関する陳述書」を添付しなければなりません。これには,業務内容や事業設備・在庫・什器備品などについても記載します。
これら以外に,個別の設備等の資料の添付も必要です。設備等の購入等のときの書類等を添付することになります。具体的には,売買契約書などを添付します。場合によっては,写真などを添付することもあります。
そして,現在評価額を示す資料を添付します。前記の買取業者などの査定書などを添付します。
事業設備・在庫品・什器備品等を記載する意味
前記のとおり,個人事業者・自営業者の方の事業に関する事業設備・在庫品・什器備品等は,個人の財産です。したがって,換価処分の対象となります。そのため,資産目録への記載が必要となるのです。
なお,事業設備や在庫品等を換価処分しなければいけなくなるということは,同時に,破産すると,個人事業を継続していくことは難しくなるということを意味しています。
破産をしたからといって個人事業や自営業を続けてはいけないわけではありません。しかし,事業設備等を換価処分しなければならないため,事業を続けることが事実上難しくなることがあるということです。
したがって,個人事業者の方が破産する場合には,個人事業を廃業せざるを得なくなる危険性があるということを肝に銘じておく必要があるでしょう。
もっとも,業務に欠くことができない器具については,自由財産として換価処分が不要となるものもあります。
その他,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産
これまでに記載してきた財産のほかに,自己破産申立て時点において,回収・換価の可能性がある財産が存在する場合には,資産目録明細「その他,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産」への記載が必要です。
「その他,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産」には,上記記載欄のとおり,以下の事項を記載します。
- 相手方:換価・回収すべき相手方の氏名・名称を記載します。所在や連絡先を記載することもあります。
- 金額:換価・回収できる金額を記載します。不明の場合には「不明」と記載します。
- 時期: 換価・回収が可能となる時期を記載します。すでに到来している場合にはその時期を記載します。
- 備考:当該財産に関連する情報を記載します。換価できる財産の内容・種類等を記載します。例えば,「過払い金」「否認権行使」「敷金」「保証金」等を記載することになります。
各項目に該当しない財産
これまで述べてきたように,資産目録には,現金・預貯金・不動産などそれぞれ財産の種類ごとに資産の内容等を記載する項目が用意されています。
とはいえ,あらゆる種類の財産について項目を書式に入れておいては膨大すぎる量になってしまいます。そのため,項目が用意されているのは主要な財産に限られています。
したがって,あらかじめ用意されている項目以外の財産を持っているという場合もあり得ます。
また,例えば,財産があることは分かっているものの,その財産がどこにあるか分からない,あるいは,その財産を他人に渡してしまっている場合には,破産管財人がその財産の回収を図らなくてはいけません。
そこで,各項目に当たらない財産がある場合等には,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産として,資産目録に記載することになります。
未回収の債権
破産手続において換価される財産は,「物」に限られません。「債権」も換価処分が必要となります。
債権の処分方法としては,債権自体を売るという方法もあり得ます。しかし,もっとも簡便な債権の処分方法は,債権を回収する方法でしょう。
破産者の財産の換価処分を行うのは,破産管財人の職務です。したがって,債権回収は破産管財人が行うことになります。つまり,破産管財人が破産者に代わって,取立てを行うことになります。
そのため,破産者が債権をもっているが自力では回収できないような場合にも,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産として,資産目録に記載することになります。
否認権行使の対象となる財産
破産手続における問題の1つに,否認権行使の問題があります。
破産管財人は,否認権を行使して破産者の財産から流出した財産を回収する役割をもっています。否認権行使によって,破産財団をあるべき姿に戻すのです。
したがって,否認権行使の対象となるような財産があるという場合には,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産として,資産目録に記載することになります。
回収の相手方
東京地裁本庁の資産目録では,回収の「相手方」の記載が必要です。
相手方欄には,回収すべき物を持っている相手方,財産が金銭債権であれば債務者の氏名・名称を記載します。
回収可能な金額
東京地裁本庁の資産目録では,回収可能な「金額」の記載が必要です。
金額の確定していない財産や物であれば,評価額を記載します。金銭債権であれば,その債権額を記載します。
時期
東京地裁本庁の資産目録では,回収が可能となる「時期」の記載が必要です。
回収可能な財産であるからといって,すぐに回収できるものばかりではありません。支払期限や引渡期限がある場合には,その期限までは回収できないのが原則です。
そこで,回収可能となる時期を記載する必要があります。物であれば当該財産に関する返還請求権等が発生する年月日を,債権であれば債権が発生または行使が可能となる年月日を記載します。
すでに期限が到来している場合でも,そのすでに到来している年月日を記載します。
備考欄に記載する事項
東京地裁本庁の資産目録では,「備考」欄への記載が必要です。
備考欄には,補充して報告すべき事項を記載します。例えば,債権の発生原因や物を引き渡した原因などを記載します。それが回収できなかった理由なども書いておくといいでしょう。
破産管財人による回収可能性のある財産の添付資料
「その他,破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産」に関しては,その財産が破産者の財産であること,あるいは,破産者の財産であったことを示す資料を添付する必要があります。
例えば,物であれば,不動産の登記簿や物の購入の際の契約書です。金銭債権等であれば,債権発生原因の契約書などです。
次に,それをどういう経緯で相手方に譲り渡したのかを示す資料を添付します。
例えば,相手方との間の売買契約書などが考えられます。盗まれたりしたのならば,刑事裁判の記録などがあるでしょう。場合によっては,別途,報告書等を作成する必要もあるかもしれません。
財産の評価が必要ならば,査定書などの添付が必要になります。
また,場合によっては,破産管財人が裁判によって財産の回収を図らなければならないという場合が生じるかも知れません。
そのため,裁判の際に有利となるような証拠を用意しておく必要があります。もっとも,どういう証拠が必要なのかは専門的判断を要します。したがって,申立て時には必要が無いかもしれません。
破産手続の開始後,破産管財人の指導を受けて準備することになるでしょう。代理人弁護士がいるならば,代理人と相談して収集することになります。
また,回収可能な財産があるのかどうかは,単に破産財団を増殖させるというだけにとどまりません。同時廃止となるか管財手続となるかの判断にも影響を与えます。
例えば,実際に持っている財産は,破産手続の費用を支払うのにも満たない程度であったとします。こういう場合,通常は同時廃止となります。
しかし,現に持ってはいないものの,回収可能でしかも回収できれば20万円以上で換価できる財産があるという場合,これを回収できれば,破産手続費用を支払うだけの財産ができます。
この場合には,同時廃止ではなく,管財手続となります。
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