東京地裁本庁における自己破産の陳述書(報告書)の書き方
東京地方裁判所本庁においては,自己破産の申立書に陳述書(または報告書)を添付して申立てをする必要があります。申立人本人が作成する場合の題名は「陳述書」となり,申立代理人弁護士が作成する場合の題名は「報告書」となります。内容的には違いがありません。
ここでは,この東京地方裁判所本庁における陳述書・報告書はどのように書けばよいのか,また,どのような書類・資料を添付すればよいのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
- 東京地裁本庁における陳述書(報告書)
- 東京地裁本庁における陳述書(報告書)の書式
- 表題部
- 過去10年前から現在に至る経歴
- 家族関係等
- 現在の住居の状況
- 今回の破産申立費用の調達方法
- 破産申立てに至った事情
- 免責不許可事由
(著者 : 弁護士 志賀 貴 )
東京地裁における陳述書(報告書)
破産手続開始の申立書には,訓示的記載事項として,債務者の収支状況や負債増大の原因などを記載しなければならないとされています。
もっとも,東京地裁(立川支部も含む。)における自己破産申立ての場合,破産手続開始・免責許可の申立書自体に債務者の収支状況や負債増大の原因などを具体的に記載しません。
その代わりに,申立書に「陳述書(報告書)」を添付しなければならず,その陳述書(報告書)に債務者の収支状況や負債増大の原因などを具体的に記載することになっています。
陳述書と報告書の違いは,誰が作成したのかという点です。記載項目に違いはありません。自己破産申立人自身が作成する場合の題名は「陳述書」,申立代理人弁護士が作成する場合の題名は「報告書」となります。
陳述書とは,その名のとおり「陳述」したことを記載した書類です。申立人債務者本人または事情を知っている関係者等が言ったことをそのまま記載した書面という意味です。
具体的に言うと,陳述書の場合には「私は・・・した。」という書き方になります。一人称は「私」になるのです。
これに対し,報告書とは,あくまで「報告」です。つまり,申立代理人弁護士が,申立人債務者や関係者等から聴取した事項を,裁判所に報告する書面ということです。
具体的な書き方で言うと「債務者は・・・した。」と書くことになるでしょう。報告書では,一人称は「債務者」ということになるのです。作成者は,申立代理人です。
債務者の財産関係については資産目録に記載しますので,この陳述書・報告書には,生活状況や破産申立てに至った事情や経緯,免責不許可事由に関する事項などを記載します。
東京地裁本庁では,陳述書(報告書)の書式が用意されています。これを使えば,必要事項を埋めていくだけで済みます。
陳述書・報告書のような書式が用意されているのは,東京地裁本庁だけに限りません。他の裁判所でも同じような書式が用意されていることがあります。
東京地裁本庁における陳述書(報告書)の書式
東京地裁本庁(霞が関)の陳述書・報告書の書式は,以下のとおりです(令和4年11月30日現在)。
東京地裁本庁の陳述書・報告書に記載する項目は,以下のとおりです。
表題部
前記陳述書・報告書書式1ページ目の上部には,表題があります。
表題部は,まず,「申立人債務者」の氏名を記載します。
申立人債務者自身,または,代理人弁護士以外の債務者の関係者が作成したものである場合には,「□陳述書」のチェックボックスにチェックを入れ,作成名義人又は申立人の氏名を記載した上で押印します。
申立代理人弁護士が作成したものである場合は,「□報告書」のチェックボックスにチェックを入れ,申立代理人弁護士の氏名を記載した上で押印します。
過去10年前から現在に至る経歴
東京地裁の陳述書・報告書には,「過去10年前から現在に至る経歴」を記載しなければなりません。
ここでいう経歴とは,いわゆる「職歴」です。履歴書等に書く職歴とほぼ同様です。アルバイトなども記載します。職歴を時系列で記載していきます。
記載する職歴は,過去10年前からのものです。もっとも,これはあくまで目安の数字です。破産に至った経緯に関係ある場合には,10年より前の職歴も記載する必要があります。
あまり膨大にはならないというのであれば,むしろ,初めて職に就いたときからすべての職歴を記載してしまってかまわないでしょう。その方が,分かりやすいかもしれません。
「過去10年前から現在に至る経歴」には,以下の事項を記載します。
- 就業期間:入社から退社まで,就業していた期間を記載します。
- 就業先(会社名):就業先の会社名などを記載します。当然,正式名称を記載する必要があります。
- 地位:就業先における地位をチェックボックスの各項目から選択してチェックします。各項目に該当がない場合は,「その他」を選択し,具体的な地位を括弧内に記載します。
- 業務の内容:就業先における具体的な業務内容を記載します。
就業期間
「過去10年前から現在に至る経歴」には,「就業期間」を記載します。
この「就業期間」の欄には,入社から退社までの期間を記載します。「〇〇年〇〇月~〇〇年〇〇月」という形で記載します。
在職中の就業先については,退社年月の代わりに「現在」と記載しておけばよいでしょう。
就業先(会社名等)
「過去10年前から現在に至る経歴」には,「就業先(会社名等)」を記載します。
この就業先の欄には,就業先の会社名などを記載します。正式名称を記載しなければなりません。
会社であれば,「株式会社」等の名称も忘れずに記載します。就業先が個人事業者であれば,屋号や使用者の氏名を記載します。
地位・就業形態
東京地裁本庁の「過去10年前から現在に至る経歴」には「地位」を記載する必要があります。
「地位」「就業形態」の欄は,チェックボックス形式になっています。「自営」,「勤め」,「パート・バイト」「無職」から該当する就業形態を選択してチェックすることになります。
「自営」,「勤め」,「パート・バイト」「無職」のいずれにも当たらない場合には,その他のボックスにチェックします。そして,( )の中に該当する地位や就業形態を記載します。
業務の内容
「過去10年前から現在に至る経歴」には,「業務の内容」を記載します。この「業務の内容」の欄には,当該就業先において担当していた業務の内容を記載します。
家族関係等
東京地裁の陳述書・報告書には,「家族関係等」を記載しなければなりません。
この「家族関係等」の欄には,家族についての情報を記載します。同居の家族だけでなく,申立人の収支・債務の発生原因などに関係するならば,同居していない親族なども記載する必要があります。
具体的には,家族等の「氏名」,「続柄」,「年齢」,「職業」,それにその人との「同居の有無」を記載します。
続柄は,申立人からみた関係を記載することになります。また,同居している場合には,同居の欄に〇をします。
家族関係等を記載する意味
前記のとおり,東京地裁本庁の陳述書・報告書には,「家族関係等」を記載しなければなりません。
自己破産の効力は申立人債務者(破産者)にしか及びませんから,家族関係等を記載するからといって,記載をした家族などにも自己破産の効力が及ぶわけではありません。
あくまで,破産者の経済的状況を確認するために記載するものです。
家族がいれば,その家族のための支出があるのが通常です。そこで,破産者の収支状況は,破産者個人ではなく,家計全体から判断されます。
家族は配偶者のみなのか,子どももいるのか,または他の親族なども同居しているのか,同居はしていなくても,収支に関係しているのかなどを確認するために,家族関係等の記載が必要とされているのです。
現在の住居の状況
東京地裁の陳述書・報告書には,「現在の住居の状況」を記載しなければなりません。
書き方としては,「ア 申立人が賃借」「イ 親族・同居人が賃借」「ウ 申立人が所有・共有」「エ 親族が所有」のうちから選択して丸印を付ける形です。
アからエのどれにも該当しない場合は,「オ その他」を選択して,カッコ内に具体的な住居の状況を記載します。
「ア 申立人が賃借」か「イ 親族・同居人が賃借」のいずれかに当たる場合は,さらに「a 民間賃借」「b 公営賃借」「c 社宅・寮・官舎」のうちから選択して丸印を付けます。
aからcのどれにも該当しない場合は,「d その他」を選択して,カッコ内に具体的な賃借建物の種類を記載します。
「現在の住居の状況」を記載する意味
東京地裁本庁の陳述書・報告書には,「現在の住居の状況」を記載しなければなりません。
賃借であればさほど問題にはなりませんが,現在の住居が破産者の所有物であれば,それは処分の対象となる財産になります。
したがって,現在の住居の住居が誰の名義のものなのかということは,破産手続において重要な事項です。
また,他人名義であっても,家賃がどれくらいかかるのかということは破産者の収支に関わりますから,確認の必要があります。
そのため,陳述書(報告書)に,「現在の住居の状況」を記載することが必要とされているのです。
「現在の住居の状況」の添付資料
「現在の住居の状況」を明らかにするため,資料を添付しておくのがよいでしょう。
まず,住居を申立人本人又は親族や同居人が賃借している場合には,賃借物であるということや賃借の形態を示す根拠となる資料の添付が必要です。具体的には,賃貸借契約書の写しなどを添付します。
住居を申立人本人が所有・共有し又は親族が所有しているという場合には,所有物・共有物であるということを示す根拠となる資料の添付が必要です。具体的には,不動産登記の履歴事項証明書を添付します。
今回の破産申立費用の調達方法
東京地方裁判所本庁の陳述書・報告書には,「今回の破産申立費用の調達方法」を記載しなければなりません。
具体的には,「申立人自身の収入」「親族・友人・知人・( )からの援助・借入れ」のうちから選択して,該当のチェックボックスにチェックを付ける形です。
親族・友人・知人以外の人から援助や借入れをして破産申立費用を調達した場合には,( )内にその人の氏名や名称を記載します。
親族なのか友人なのか知人なのかをはっきりさせるため,親族,友人,知人のところに○を付けておくと良いと思います。
また,援助なのか借入なのかをはっきりさせるため,援助,借入のどちらかにも○をつけておくと良いでしょう。
法テラスの民事法律扶助利用による場合は,( )内に法テラスと記載し,業者からの借入れの場合は,業者の名称を記載します。
一部は自分の収入で,それ以外は援助などでというときのように,いくつかの方法を組み合わせて資金を調達したという場合には,該当する項目全部にチェックすることになります。
「親族・友人・知人・( )からの援助・借入れ」の場合
「親族・友人・知人・( )からの援助・借入れ」を選択した場合には,さらに,その援助者・貸主はその援助金・貸付金が破産申立費用に使われることを知っていたのかどうかについて,「知っていた」か「知らなかった」のチェックボックスにチェックをする必要があります。
というのも,特に借入の場合ですが,貸主が,破産することを知って貸した場合と知らずに貸した場合とでは,話が違ってきます。
知って貸したという場合ならば,破産によってお金を返してもらえなくなるとしても,文句は言えないでしょうし,その場合は借入れというよりもむしろ援助と捉えるべきでしょう。
これに対して,知らずに貸したという場合,貸主の方もまさか返してもらえなくなるとは思っていないでしょう。破産申立費用に使うと知っていたら,貸さなかった又は援助しなかったということもあるかもしれません。
そのため,後に,詐欺的借入れとして,免責不許可事由や破産犯罪・詐欺罪の成立などが問題となる可能性があります。
そのため,援助者又は貸主が,破産申立ての費用として使われると分かってお金を出してくれたのかどうかを記載しなければいけないことになっているのです。
「今回の破産申立費用の調達方法」を記載する意味
東京地裁本庁の陳述書・報告書には,「今回の破産申立費用の調達方法」を記載しなければなりません。
破産申立費用には,裁判所に提出する印紙・郵券の代金,裁判所に支払う官報公告費や予納金のほか,弁護士に依頼した場合の弁護士報酬等の費用も含まれます。
破産申立費用をどのような方法で調達したかは,問題になることがあります。
自分の収入で費用を準備したのであれば問題ないでしょうが,しかし,例えば,人から借りて調達した場合などは,問題となることがあります。
人から借りて調達した場合は,その人から借りた借金も破産債権ということになります。つまり,債権者が増えてしまうわけです。
場合によっては,返せないのにお金を借りたということで,計画倒産の疑いも持たれてしまいます。
そのため,破産手続費用をどのような方法で調達したかを,陳述書(報告書)へ記載することが必要とされているのです。
破産申立てに至った事情
東京地裁の陳述書・報告書には,「破産申立てに至った事情」を記載しなければなりません。
どうして破産申立てをしなければならない状況になったのかを知ることは,債権者にとっても重要な関心事ですから,具体的な事情を記載する必要があるでしょう。
書き方に決まりはありませんが,書式の注意書きにあるように,「債務の発生の原因」「債務の増大の原因」「支払不能に至る経緯」「支払不能となった時期」を中心に記載するのがよいでしょう。
これらの事情を時系列で記載していくことになります。
また,借入れそのもののことだけでなく,借入れをするきっかけとなった出来事なども記載しておく必要があります。
よくあるのは,会社の倒産や解雇,事業の失敗,離婚,詐欺や窃盗の被害にあったこと,ギャンブルや浪費,人にお金を貸したことなどです。
文章で書くか,箇条書きで書くか
「破産申立てに至った事情」の書き方は,特に決められていません。さまざまあり得ると思います。文章形式で記載していくのが通常です。
もっとも,できる限り分かりやすく記載すべきであることは言うまでもないでしょう。
したがって,文章形式で書くのが難しいという場合には,分かりやすくするために,時系列に沿って,箇条書きのような感じで書いてもかまわないと思います。
例えば,文章で書いた場合は,このように書きます。
平成〇〇年〇〇月,私(申立人)は,〇〇に使うために,〇〇株式会社から〇〇円を借り入れました。 これによって,借金の総額は〇〇円になり,毎月の返済は〇〇円になりました。 当時の毎月の収入は〇〇円だったので,返済はそれほど難しくありませんでした(返済に窮してしまいましたetc)。
他方,箇条書きで書くのであれば,以下のようになります。
平成△△年△△月,私(申立人)は,・・・・
平成◇◇年◇◇月,私(申立人)は,・・・・
上記はあくまで参考例ですので,これが良いというものではありません。どちらの形式にすべきかは決まっていませんが,できる限り分かりやすく,しかも具体的に記載できればどちらでもかまわないでしょう。
ただ,日付や金額は,できる限り正確で詳細なものを記載しなければなりません。
項目を分ける
文章で書くか,箇条書きで書くかはともかく,項目を分けて書くと,分かりやすくなると思います。
どのように項目わけをするかは事情によって異なるとは思いますが,大きく分けると,「債務の発生の原因」,「債務の増大の原因」,「支払不能に至る経過」,「支払不能となった時期」,「支払不能後から申立てまでの経過」の5つに分けることができるでしょう。
例えば,以下のような感じです。
1 債務発生の原因
・・・・
2 債務増大の原因
・・・・
3 支払不能に至る経過
・・・・
4 支払不能となった時期
・・・・
5 支払不能から申立てまでの経過・・・・
債務発生の原因・増大の原因・支払不能に至る経過などは,明確に分けることができないという場合もあり得ます。
そういう場合は,時系列に沿って,大きな出来事ごとに項目を分けて記載したり,それも難しければ,単純に「平成〇〇年から△△年まで」などというように年度ごとに項目を分けて書いたりすれば良いでしょう。
「破産申立てに至った事情」を記載する意味
東京地裁本庁の陳述書・報告書には,「破産申立てに至った事情」を記載しなければなりません。
「破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情」が破産手続開始の申立書の訓示的記載事項とされていることからも分かるように,破産申立てに至った事情を把握することは,破産手続において重大な要素です。
これが分からなければ,どうして破産に至ったのかということが分かりませんし,本当に支払不能であるのかどうかも確認できません。
また,破産に至った原因が分からないのであれば,破産をして免責許可をもらったとしても,本当に経済的に立ち直ることができるのかどうかも分かりません。
さらに,破産申立てに至った事情から新たな資産が発覚したり,免責不許可事由や否認権行使の問題などが発見されるということも,よくあることです。
そのため,「破産申立てに至った事情」の記載が必要となるのです。
なお,資産や免責不許可事由が発見されるおそれからと言って,虚偽の報告をすることは許されません。
免責不許可事由の疑いがある事実があっても,正直にちゃんと申告さえしておけば,よほどのことがない限り,裁量によって免責が許可されます。
むしろ虚偽や隠蔽を図った方が,よほど危険です。免責が不許可になる一番の原因は,破産手続に協力しないことだからです。
資産を失うだけでなく,借金もそのまま残ってしまうことになり,最悪の結果になってしまいます。
したがって,自己破産によって経済的更生を望むのであれば,正直にすべてを申告することが最も確実な方法です。
免責不許可事由
東京地裁の陳述書・報告書には,「免責不許可事由」を記載しなければなりません。前記の書式で言えば,3頁以下です。
個人の自己破産における最大の目的は,裁判所によって免責を許可してもらうことです。もっとも,破産法所定の免責不許可事由がある場合には免責の許可を受けることができないことがあります。
そこで,免責不許可事由があるのか否か,免責不許可事由を疑わせる事情はないか,免責不許可事由があるとしても裁量免責を相当とする事情はないかについて,陳述書・報告書に記載する必要があるのです。
免責不許可事由にはさまざまなものがあります。そのため,陳述書・報告書においても,それぞれの種類ごとに,個別的な事情を記載していくことになっています。
まず,免責不許可事由があると考える場合には「有」のチェックボックスに,無いと考える場合は「無」のチェックボックスに,あるかないか不明の場合は「不明」のチェックボックスにそれぞれチェックを入れます。
そして,「有」または「不明」にチェックをした場合には,以下の問いに答える形式で各項目を記載する必要があります。
- 問1:本件破産申立てに至る経過の中で,当時の資産・収入に見合わない過大な支出又は賭博その他の射幸行為をしたことがありますか(破産法252条1項4号)。
- 問2:破産手続開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担したり,又は信用取引により商品を購入し著しく不利益な条件で処分してしまった,ということがありますか(破産法252条1項2号)。
- 問3:一部の債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,義務ではない担保の提供,弁済期が到来していない債務の弁済又は代物弁済をしたことがありますか(破産法252条1項3号)。
- 問4:破産手続開始の申立日の1年前の日から破産手続開始の申立日までの間に,他人の名前を勝手に使ったり,生年月日,住所,負債額及び信用状態等について虚偽の事実を述べて,借金をしたり,信用取引をしたことがありますか(破産法252条1項5号)。
- 問5:破産手続開始(免責許可)の申立前7年以内に以下に該当する事由がありますか(破産法252条1項10号関係)。
- 問6:その他,破産法所定の免責不許可事由に該当すると思われる事由がありますか。
- 問7の①:破産手続開始の申立てに至る経過の中で,商人(商法4条。小商人[商法7条,商法施行規則3条]を除く。)であったことがありますか。
- 問7の②:業務及び財産の状況に関する帳簿(商業帳簿等)を隠滅したり,偽造,変造したことがありますか(破産法252条1項6号)。
- 問8 本件について免責不許可事由があるとされた場合,裁量免責を相当とする事情として考えられるものを記載してください。
>> 免責不許可事由とは?
「免責不許可事由」の冒頭部分
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」においては,その冒頭部分に,免責不許可事由があるのかどうかをチェックボックス方式で記載する必要があります。
免責不許可事由が有ると考える場合には「有」に,無いと考える場合には「無」に,有るのか無いのかが不明である場合には「不明」にチェックを付けます。
「有」または「不明」にチェックを入れた場合には,以下の各設問に回答しなければなりません。
「免責不許可事由」の問1(破産法252条1項4号)
破産法 第252条 第1項
裁判所は,破産者について,次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には,免責許可の決定をする。
④ 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと。
自己破産・免責許可を申し立てたからといって,必ず免責が許可されるわけではありません。破産法252条1項各号に定める免責不許可事由がある場合には,免責が不許可とされることもあります。
この免責不許可事由の1つに「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと」があげられています(破産法252条1項4号)。
収入に見合わない買い物・海外旅行などの浪費行為,パチンコ・競馬・競輪などのギャンブル・賭博行為,株式取引・FX取引などの射幸行為によって,著しく財産を減少させた場合または過大な債務を負担した場合には,破産法252条1項4号の免責不許可事由に該当します。
免責不許可事由としては,最も多い類型といえるでしょう。
この破産法252条1項4号の免責不許可事由に関する問いが,東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問1です。
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問1は「本件破産申立てに至る経過の中で,当時の資産・収入に見合わない過大な支出又は賭博その他の射幸行為をしたことがありますか(破産法252条1項4号)」です。
問1の設問の事実が有る場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れます。「有」にチェックを入れた場合には以下の①~⑥の小問に回答しなければなりません。
- ① 内容:「ア 飲食」「イ 風俗」「ウ 買物」「エ 旅行」「オ パチンコ」「カ 競馬」「キ 競輪」「ク 競艇」「ケ 麻雀」「コ 株式投資」「サ 商品先物取引」「シ FX(外国為替証拠金取引)」「ス その他」から選択します。
- ② 時期:○年○月頃~○年○月頃の形で①に該当する行為をしていた時期を記載します。
- ③ ②の期間中にその内容に支出した合計額
- ④ 同期間中の申立人の資産及び収入(ギャンブルや投資・投機で利益が生じたときは,その利益を考慮することは可)からみて,その支出に充てることができた金額
- ⑤ ③-④の額
- ⑥ ②の終期時点の負債総額
①の内容が複数ある場合はすべて選択し,その内容ごとに②~⑥に回答する必要があります。
① 内容
小問①は「内容」,つまり,具体的にどのような内容の行為を行っていたのかという質問です。
小問①では,「ア 飲食」「イ 風俗」「ウ 買物」「エ 旅行」「オ パチンコ」「カ 競馬」「キ 競輪」「ク 競艇」「ケ 麻雀」「コ 株式投資」「サ 商品先物取引」「シ FX(外国為替証拠金取引)」「ス その他」のうちから該当するものを選択して,該当するものに〇を付けます。
「買物」については,何を買ったのかをカッコ内に記載します。商品名まで記載する必要はありませんが,どのような種類のものをかは分かる程度に記載します。例えば,洋服とか,貴金属とかいうような感じです。
ア~シまでのほかに,その他の浪費・賭博・射幸行為があると考える場合には,その他に〇を付けて,カッコ内にその具体的な内容を記載します。
例えば,オートレース,金融先物取引などです。宝くじやTOTOなども度を過ぎたものであれば,該当しうるでしょう。
② 時期
小問②は「時期」,つまり,上記小問①で選択した行為を実際に行っていた時期はいつかという質問です。
具体的には,「〇年〇月頃~〇年〇月頃」という形で記載します。より具体的な日付が分かれば,それを記載した方がよいでしょう。
③ ②の期間中にその内容に支出した合計額
小問③は「②の期間中にその内容に支出した合計額」,つまり,前記②で記載した期間中に,前記①で選択した行為をしたことによって支出した合計額はいくらかという質問です。
例えば,平成28年1月から同年12月まで毎月,パチンコで10万円ずつ使っていたのであれば,小問③には「120万円」と記載することになります。
なお,毎月の具体的な金額まで分からないということがあるでしょう。その場合には,通帳の記載や借入れの履歴などを見て,毎月どのくらい使っていたのかをおおよそ予測していくほかないでしょう。
④ 同期間中の申立人の資産及び収入(ギャンブルや投資・投機で利益が生じたときは,その利益を考慮することは可)からみて,その支出に充てることができた金額
小問④は「同期間中の申立人の資産及び収入(ギャンブルや投資・投機で利益が生じたときは,その利益を考慮することは可)からみて,その支出に充てることができた金額」はいくらだったのかという質問です。
小問③では,単純に,選択した浪費等の行為によって実際にいくら支出したのかという問いでしたが,小問④は,そうではなく,当時の資産や収入から考えて,借入れ等をせずに,その浪費等の行為にいくら支出することができたのかという問いです。
例えば,平成28年1月から同年12月まで毎月,パチンコで10万円ずつ使っていたという前記事例でいうと,同期間中の収入や資産と生活費など必要な支出を考慮すると,毎月パチンコに充てることができたのは,本当であれば2万円ほどしかなかったという場合であれば,小問④には「24万円」と記載することになります。
なお,ギャンブルや投資・投機で利益が生じたときは,その利益を考慮することは可能です。
例えば,上記の例において,パチンコで毎月1万円の利益が出ていたのであれば,毎月パチンコに充てることができたのは,収入・資産からの利益2万円とパチンコでの利益1万円を合計した3万円ということになるので,小問④には「24万円」と記載することになります。
⑤ ③-④の額
小問⑤は「③-④の額」です。
前記のとおり,これにより,①で選択した内容について,自分の収入の範囲を超えて使ってしまった金額がいくらなのかということが分かります。
⑥ ②の終期時点の負債総額
小問⑥は「②の終期時点の負債総額」です。
債権者から送ってきてもらう取引の履歴などを見れば,終期時点において残高がどのくらいあったのかが判明します。取引履歴などが無い場合については,現在の残高と毎月の返済額を考慮して,金額を計算します。
この小問⑥で回答した金額と上記⑤の金額を比較することにより,選択した浪費等の行為に使った余分な支出が,負債のうちのどのくらいの部分を占めているのかが分かります。
⑤の金額と⑥の金額がほぼ同じくらいであったり,⑤の金額の方が⑥の金額よりも大きいような場合には,負債の大半は,その浪費的な支出によって発生したものであるといえることになるでしょう。
「免責不許可事由」の問2(破産法252条1項2号)
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問2は「破産手続開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担したり,又は信用取引により商品を購入し著しく不利益な条件で処分してしまった,ということがありますか(破産法252条1項2号)」です。
問2の設問の事実が有る場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れます。「有」にチェックを入れた場合には以下の①~③の小問に回答しなければなりません。
- ①内容:「ア 高利借入れ(→次の②に記入)」「イ 換金行為(→次の③に記入)」「ウ その他」から選択します。
- ②高利(出資法違反)借入れ:高利借入れ(闇金等からの借入れ)をしたことがある場合には,「借入先」「借入時期」「借入金額」「約定利率」を記載します。
- ③換金行為:換金行為をしたことがある場合には,「商品」「購入価格」「購入時期」「換金価格」「換金時期」を記載します。
「免責不許可事由」の問3(破産法252条1項3号)
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問3は「一部の債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,義務ではない担保の提供,弁済期が到来していない債務の弁済又は代物弁済をしたことがありますか(破産法252条1項3号)」です。
問3の設問の事実が有る場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れます。
「有」にチェックを入れた場合には,問3の設問の事実に関し,その「時期」「相手の名称」「弁済額」を記載する必要があります。
「免責不許可事由」の問4(破産法252条1項5号)
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問4は「破産手続開始の申立日の1年前の日から破産手続開始の申立日までの間に,他人の名前を勝手に使ったり,生年月日,住所,負債額及び信用状態等について虚偽の事実を述べて,借金をしたり,信用取引をしたことがありますか(破産法252条1項5号)」です。
問3の設問の事実が有る場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れます。
「有」にチェックを入れた場合には,問4の設問の事実に関し,その「時期」「相手方」「金額」「内容」を記載する必要があります。
「免責不許可事由」の問5(破産法252条1項10号関係)
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問5は「破産手続開始(免責許可)の申立前7年以内に以下に該当する事由がありますか(破産法252条1項10号関係)」です。
問3の設問の事実が有る場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れます。
「有」にチェックを入れた場合には,問4の設問の事実に関し,1~3の事実があるかどうかを回答する必要があります。
- 免責許可決定の確定:過去に免責許可決定を受けたことが有る場合には,免責許可決定日を記載し,免責許可決定書を添付します。
- 給与所得者等再生における再生計画の遂行:過去に給与所得者等再生における再生計画を遂行したことが有る場合には,再生計画認可決定日を記載し,再生計画認可決定書を添付します。
- ハードシップ免責決定(民事再生法235条1項,244条)の確定:過去に個人再生におけるハードシップ免責決定を受けたことが有る場合には,再生計画認可決定日を記載し,再生計画認可決定書を添付します。
>> 過去に免責許可等されたことも免責不許可事由になるのか?
「免責不許可事由」の問6(その他)
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問6は「その他,破産法所定の免責不許可事由に該当すると思われる事由がありますか。」です。
問1~5および問7では,免責不許可事由のうち,破産法252条1項2号~6号および10号について問われていますが,これら以外にも,破産法252条1項では1号,7号~9号および11号でそれぞれ免責不許可事由を定めています。
そこで,これら破産法252条1項では1号,7号~9号および11号が有ると考える場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れ,「有」にチェックを入れた場合には,その具体的な内容を記載する必要があります。
「免責不許可事由」の問7(破産法252条1項6号)
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問7①は「破産手続開始の申立てに至る経過の中で,商人(商法4条。小商人[商法7条,商法施行規則3条]を除く。)であったことがありますか。」です。
「商人」とは「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」のことです(商法4条)。
過去に「商人」をしていたことがあった場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れ,「有」にチェックを入れた場合には,さらに問7②の質問に回答します。
問7②の質問は「業務及び財産の状況に関する帳簿(商業帳簿等)を隠滅したり,偽造,変造したことがありますか(破産法252条1項6号)。」です。
実際に,決算書や各種の業務帳簿などを故意に隠滅・偽造・変造したことが有る場合には「有」に,無い場合には「無」のチェックボックスにチェックを入れます。
「有」にチェックを入れた場合には,さらに,その隠滅や偽造をした「時期」「内容」「理由」を具体的に記載する必要があります。
>> 免責不許可事由となる業務帳簿等の隠匿・偽造・変造とは?
「免責不許可事由」の問8(裁量免責)
東京地裁本庁の陳述書・報告書「免責不許可事由」の問8は「本件について免責不許可事由があるとされた場合,裁量免責を相当とする事情として考えられるものを記載してください。」です。
免責不許可事由がある場合でも常に免責が不許可になるわけではありません。事情によっては,免責不許可事由があっても裁判所の裁量により免責が許可されることはあります。
裁量免責ができるかどうかは,「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮」して判断されます。
そこで,免責不許可事由がある場合には,問8に,裁量免責を相当とする具体的な事情を記載する必要があります。
東京地裁本庁の陳述書・報告書の記載方法に関連する記事
- 自己破産申立てに強い弁護士をお探しの方へ
- 弁護士による自己破産申立ての無料相談
- 自己破産申立て(個人)の弁護士費用
- 自己破産(個人)の記事一覧
- 自己破産の申立て(申請)とはどのような手続なのか?
- 自己破産はどこの裁判所に申し立てればよいのか?
- 東京地裁における自己破産申立ての方式とは?
- 東京地裁本庁の自己破産申立書の作成・記載方法
- 東京地裁本庁の自己破産申立書の添付書類・資料
- 東京地裁本庁の自己破産における債権者一覧表
- 東京地裁本庁の自己破産における資産目録
- 東京地裁本庁の自己破産における陳述書・報告書
- 東京地裁立川支部の自己破産申立書の作成・記載方法
- 東京地裁立川支部の自己破産における陳述書(報告書)
この記事がお役に立ちましたらシェアお願いいたします。
自己破産のことならLSC綜合法律事務所にお任せください
個人の自己破産申立てに強い弁護士をお探しの方がいらっしゃいましたら,債務整理のご相談実績2500件以上,自己破産申立て300件以上,東京地方裁判所立川支部で破産管財人実績もある,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所にご相談・ご依頼ください。
自己破産のご相談は「無料相談」です。まずはご相談ください。
※なお,お電話・メールによるご相談は承っておりません。弊所にご来訪いただいてのご相談となりますので,あらかじめご了承ください。
LSC綜合法律事務所
所在地
〒190-0022東京都立川市錦町2丁目3-3 オリンピック錦町ビル2階
ご予約のお電話
042-512-8890
代表弁護士 志賀 貴
日本弁護士連合会:登録番号35945(旧60期)
所属会:第一東京弁護士本部および多摩支部
>> 日弁連会員検索ページから確認できます。
アクセス
最寄駅:JR立川駅(南口)・多摩都市モノレール立川南駅から徒歩5~7分
駐車場:近隣にコインパーキングがあります。