破産手続開始の申立書の訓示的記載事項とは?
必ず記載しなければならないわけではないものの,手続を円滑に進めるために記載しておいた方が望ましい事項のことを「訓示的記載事項」といいます。破産手続開始申立書の訓示的記載事項は,破産規則第13条第2項各号に列挙されています。実際には,この訓示的記載事項についても,申立書または申立書に添付する報告書等に記載して提出するのが通常です。
ここでは,この破産手続開始の申立書の訓示的記載事項とは何かについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
- 破産手続開始申立書の必要的記載事項
- 債務者の収支状況
- 破産手続開始原因が発生するに至った事情
- 債務者の財産に関してなされている訴訟手続等
- 債務者についてなされている他の倒産手続
- 労働組合等の利害関係人
- 破産法第9条第1項の通知をすべき機関
- 申立人又は代理人への連絡先等
(著者 : 弁護士 志賀 貴 )
破産手続開始申立書の訓示的記載事項
破産法 第20条 第1項
破産手続開始の申立ては,最高裁判所規則で定める事項を記載した書面でしなければならない。
破産規則 第13条 第2項
破産手続開始の申立書には,前項各号に掲げる事項を記載するほか,次に掲げる事項を記載するものとする。
一 債務者の収入及び支出の状況並びに資産及び負債(債権者の数を含む。)の状況
ニ 破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情
三 債務者の財産に関してされている他の手続又は処分で申立人に知れているもの
四 債務者について現に係属する破産事件(法第2条第2項に規定する破産事件をいう。以下同じ。),再生事件又は更生事件(会社更生法(平成14年法律第154号)第2条第3項に規定する更生事件又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成8年法律第95号)第4条第3項若しくは第169条第3項に規定する更生事件をいう。)があるときは,当該事件が係属する裁判所及び当該事件の表示
五 法第5条第3項から第7項までに規定する破産事件等があるときは,当該破産事件等が係属する裁判所,当該破産事件等の表示及び当該破産事件等における破産者(法第2条第4項に規定する破産者をいう。以下同じ。)若しくは債務者,再生債務者又は更生会社若しくは開始前会社(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第4条第3項に規定する更生事件にあっては,当該更生事件における更生協同組織金融機関又は開始前協同組織金融機関)の氏名又は名称
六 債務者について外国倒産処理手続(法第245条第1項に規定する外国倒産処理手続をいう。以下同じ。)があるときは,当該外国倒産処理手続の概要
七 債務者について次のイ又はロに掲げる者があるときは,それぞれ当該イ又はロに定める事項
イ 債務者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合 当該労働組合の名称,主たる事務所の所在地,組合員の数及び代表者の氏名
ロ 債務者の使用人その他の従業者の過半数を代表する者 当該者の氏名及び住所
八 債務者について第9条第1項の規定による通知をすべき機関があるときは,その機関の名称及び所在地
九 申立人又は代理人の郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号を含む。)
自己破産の手続を開始してもらうためには,管轄の裁判所に対して破産手続開始の申立書を提出する方式で申立てをする必要があります。
この破産手続開始の申立書には,破産法20条1項のとおり,最高裁判所規則(破産規則)で定める事項を記載しておかなければなりません。
この破産手続開始の申立書の記載事項のうちでも,破産規則第13条第1項各号に規定されている事項は必ず記載しなければなりません。この必ず記載しなければならない事項のことを「必要的記載事項」といいます。
それに対し,必ず記載しなければならないわけではないものの,手続を円滑に進めるために書いた方が望ましい記載事項のことを「訓示的記載事項」といいます。
破産手続開始の申立書の訓示的記載事項は,上記破産規則第13条第2項各号に列挙されている事項です。実際には,必要的記載事項とともに,この訓示的記載事項も記載しておくのが通常です。
破産手続開始の申立書の訓示的記載事項には,以下の事項があります。
- 債務者の収支状況
- 債務者の負債増大の原因
- 債務者の財産に関してなされている訴訟手続等
- 債務者についてなされている他の倒産手続
- 労働組合等の利害関係人
- 破産法第9条第1項の通知をすべき機関
- 申立人又は代理人への連絡先等
債務者の収支状況
破産規則 第13条 第2項 第1号
債務者の収入及び支出の状況並びに資産及び負債(債権者の数を含む。)の状況
訓示的記載事項の1つに,「債務者の収入及び支出の状況並びに資産及び負債(債権者の数を含む。)の状況」があります。
東京地裁では,債務者の収支状況については破産手続開始の申立書に具体的な記述はせず,その代わりに,申立書に資産目録,陳述書(報告書)及び「家計全体の状況」という書面を添付することになっています。
債務者の収入及び支出の状況については,上記の「家計全体の状況」に,資産の状況については資産目録に,負債の状況については債権者一覧表に記載することになります。
破産手続開始原因が発生するに至った事情
破産規則 第13条 第2項 第2号
破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情
訓示的記載事項の1つに,「破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情」があります。
破産手続開始の原因となる事実とは,破産手続開始原因である支払不能や債務超過であるという事実のことです(個人の破産の場合には支払不能のみが破産手続開始原因となります。)。
破産手続開始原因となる事実は必要的記載事項とされていますが,破産手続開始原因となる事実が生ずるに至った事情は訓示的記載事項とされています。
破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情とは,どのような経緯で支払不能又は債務超過となったのかを記載するということです。
東京地裁では,破産手続開始の申立書に添付する陳述書(報告書)に,債務の発生・増大の原因として,具体的に記載することになります。
>> 破産手続開始原因とは?
債務者の財産に関してなされている訴訟手続等
破産規則 第13条 第2項 第3号
債務者の財産に関してされている他の手続又は処分で申立人に知れているもの
訓示的記載事項の1つに,「債務者の財産に関してされている他の手続又は処分で申立人に知れているもの」があります。
具体的には,債務者の財産に関する訴訟,民事執行手続,民事保全手続や,すでになされている判決,競売,差押え等の執行,仮差押え等の保全処分などです。
これらがなされている場合には,その手続・処分がなされた裁判所,事件番号等を記載することになります。
東京地裁では,破産手続開始の申立書に添付する債権者一覧表・資産目録または陳述書(報告書)に,具体的に記載することになります。
債務者に対してなされている倒産手続
破産規則 第13条 第2項(第4号から第6号)
四 債務者について現に係属する破産事件(法第2条第2項に規定する破産事件をいう。以下同じ。),再生事件又は更生事件(会社更生法(平成14年法律第154号)第2条第3項に規定する更生事件又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成8年法律第95号)第4条第3項若しくは第169条第3項に規定する更生事件をいう。)があるときは,当該事件が係属する裁判所及び当該事件の表示
五 法第5条第3項から第7項までに規定する破産事件等があるときは,当該破産事件等が係属する裁判所,当該破産事件等の表示及び当該破産事件等における破産者(法第2条第4項に規定する破産者をいう。以下同じ。)若しくは債務者,再生債務者又は更生会社若しくは開始前会社(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第4条第3項に規定する更生事件にあっては,当該更生事件における更生協同組織金融機関又は開始前協同組織金融機関)の氏名又は名称
六 債務者について外国倒産処理手続(法第245条第1項に規定する外国倒産処理手続をいう。以下同じ。)があるときは,当該外国倒産処理手続の概要
訓示的記載事項には,破産規則13条2項4号以下に規定されているとおり,債務者に対してすでになされている倒産手続の記載があります。
上記条文をみると非常にいろいろあるようにも思えますが,端的に,債務者についてなされている倒産手続を記載すればよいだけです。
倒産手続には,破産手続はもちろん,民事再生や会社更生手続などがあります。個人の場合であれば,破産手続や個人再生手続をしているかどうかを記載することになるでしょう。
また,外国で倒産手続がなされている場合にはその旨も記載します。
具体的には,その倒産手続が行われている裁判所や事件番号,手続の進行状況等を記載します。
東京地裁では,破産手続開始の申立書に添付する陳述書(報告書)等に,具体的に記載することになります。
労働組合等の利害関係人
破産規則 第13条 第2項 第7号
七 債務者について次のイ又はロに掲げる者があるときは,それぞれ当該イ又はロに定める事項
イ 債務者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合 当該労働組合の名称,主たる事務所の所在地,組合員の数及び代表者の氏名
ロ 債務者の使用人その他の従業者の過半数を代表する者 当該者の氏名及び住所
訓示的記載事項の1つとして,労働組合等の利害関係人の記載があります。
債務者が事業者である場合,その債務者が破産すると,そこに勤めている使用人や従業員は,生活の基盤を失うことになります。
そのため,破産手続上,賃金や退職金の支払いをどうするかも含め,使用人をどのように扱うかは非常に重大な問題です。
とはいえ,使用人が多数の場合,これらの使用人や従業員を全員手続に関わらせるとなると,手続が煩雑になるおそれがあります。
そこで,破産手続においては,労働組合や使用人の過半数の利害を代表する者,つまり労働組合等が使用人等を代表して手続に参加することが認められています。
そのため,労働組合等の利害関係人の記載が訓示的記載事項となっているのです。ただし,個人,特に非事業者・消費者の自己破産の場合には,あまり関係はないでしょう。
破産規則第9条第1項の通知をすべき機関
破産規則 第13条 第2項 第8号
八 債務者について第9条第1項の規定による通知をすべき機関があるときは,その機関の名称及び所在地
破産規則 第9条 第1項
官庁その他の機関の許可(免許、登録その他の許可に類する行政処分を含む。以下この項において同じ。)がなければ開始することができない事業を営む法人について破産手続開始の決定があったときは,裁判所書記官は、その旨を当該機関に通知しなければならない。官庁その他の機関の許可がなければ設立することができない法人について破産手続開始の決定があったときも,同様とする。
官庁等の許可・免許・登録等をしなければ始めることができない事業やそもそも設立することすらできない法人というものがあります。
破産をすればその事業をしている法人はなくなってしまうのですから,許可等をした官庁にも破産したことをしなければ,行政に不正確な情報が残ってしまうおそれがあります。
そこで,そのような官庁等の許可等がなければ始めることができない事業を営む法人について破産手続が開始した場合,裁判所書記官は,その官庁に通知をしなければならないとされています。
そのため,上記の通知をしなければならないような法人の破産の場合には,裁判所に予め通知先の機関の情報も訓示的記載事項とされています。個人の破産の場合には,あまり関係のない記載事項です。
申立人又はその代理人の連絡先等
破産規則 第13条 第2項 第9号
九 申立人又は代理人の郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号を含む。)
申立人の氏名や住所は必要的記載事項ですが,郵便番号,電話やFAX番号は必要的記載事項ではありません。
しかし,郵便番号が分かった方が郵便を送付するときに便利です。また,郵便よりも電話やFAXの方が簡便で迅速です。代理人がいる場合には,代理人の連絡先が分かった方がよいに決まっています。
そのため,申立人やその代理人の郵便,電話やFAX番号は訓示的記載事項となっています。
東京地裁の場合でも,申立人または代理人の連絡先等は破産手続開始の申立書に記載することになっています。
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