否認権行使の可能性があると同時廃止にならないのか?
自己破産において同時廃止となるのは,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」です(破産法216条1項)。もっとも,破産手続開始時に破産手続費用を支払うだけの財産が無かったとしても,破産手続後に破産管財人の否認権行使によって財産を回収できる可能性がある場合には,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する」とは言えなくなるため,同時廃止ではなく,管財手続になることがあります。
ここでは,否認権行使の可能性があると同時廃止にならないのかについてご説明いたします。
(著者 : 弁護士 志賀 貴 )
同時廃止となる場合
破産法 第216条 第1項
裁判所は,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは,破産手続開始の決定と同時に,破産手続廃止の決定をしなければならない。
自己破産の手続において同時廃止となるのは,上記破産法216条1項のとおり,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」です。
ただし,あくまで「認めるとき」ですので,破産手続費用を支弁するだけの財産があるかどうかが不明な場合には,同時廃止とはなりません。
また,実務上,財産がないことが明らかな場合であっても,免責不許可事由が存在する場合や免責不許可事由が存在する可能性がある場合にも,同時廃止ではなく,管財事件になることがあります。
したがって,同時廃止になるのは,破産手続費用を支払うだけの財産がないことが明らかな場合であり,かつ,免責不許可事由がないことが明らかな場合ということになります。
判断の対象となる「財産」
同時廃止になるのかどうかの判断において問題となる「財産」とは,破産者が持っている財産そのもの全部というわけではありません。ここでいう財産は,破産財団に組み入れられる財産という意味です。
したがって,破産財団に組み入れられない自由財産はここでいう財産には含まれません。
法律上の自由財産だけでなく,裁判所の運用において自由財産の拡張により自由財産として扱われる財産も,原則としてここでいう財産に含まれないと考えてよいでしょう。
その意味では,破産手続費用を支払うだけの財産がないことが明らかな場合というのは,自由財産を除いた財産(ただし,現金だけは自由財産であっても,判断の対象に含められるのが通常です。)で破産手続費用を支払えないということが明らかな場合ということになります。
否認権行使の可能性と「財産がないこと」の関係
破産者が,実際に,自由財産以外の財産を有していないことが明らかであるという場合には,原則として,破産手続費用を支払うだけの財産がないことが明らかな場合に当たります。
もっとも,実際には,現に破産者が財産を有していない場合でも,財産があるのではないかと疑いがもたれる場合がありえます。
例えば,財産隠しをしていると疑われるような場合です。使途不明な金銭の動きがある場合などが典型的な場合でしょう。
しかし,これだけではありません。使途不明などでないけれども,財産があるのではないかと疑われる場合があります。それは否認権行使の可能性がある場合です。
否認権とは,簡単に言うと,すでに第三者のもとへ流出した破産者の手元に無い財産を,一定の場合に,破産者のもと,つまりは破産財団に取り戻すという破産管財人の権能のことです。
この否認権が行使されれば,第三者のもとにある財産が破産者の財産として復帰することになります。場合によっては,破産手続費用を支払えるだけの財産が戻ってくるかもしれません。
否認権行使の可能性があるときは,財産が現に破産者の手元に無い場合であっても,財産があるという状態になる可能性があります。
そのため,否認権行使の場合には,財産がないとはいいきれないので,財産がないことが明らかな場合であるとはいえません。
したがって,否認権行使の可能性がある場合には,少額管財となり,同時廃止とはならないのが通常です。
ただし,否認権行使の額が僅少で,仮に否認権行使をしても破産手続費用を賄うだけの金銭回収が見込めないという場合には,同時廃止となることもあるでしょう。
>> 否認権とは?
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