33万円以上の現金があると同時廃止にならないのか?
東京地方裁判所本庁および立川支部では,33万円以上の現金を保有している場合,同時廃止にはならないものとされています。そのため,99万円以下の現金は破産法上自由財産とされているものの,33万円以上の現金がある場合には,同時廃止ではなく管財事件(少額管財)になります。
ここでは,33万円以上の現金があると同時廃止にならないのかについてご説明いたします。
(著者 : 弁護士 志賀 貴 )
33万円以上の現金がある場合
破産手続においては,管財事件が原則とされます。そのため,同時廃止事件となるのは,破産手続では例外的な扱いということになります。
この同時廃止事件として扱われることにとなるのは,「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに足りないと認める」場合です。
東京地裁(立川支部も含む。)では,少額管財の引継予納金を原則20万円としていますから,東京地裁における「破産手続費用」は,最低20万円で済みます。
そうすると,20万円以上の現金を持っていれば破産手続費用を支弁できることになります。
もっとも,民事執行法第131条第3号は「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」を差押禁止財産としており,民事執行施行令第1条は「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」は66万円であるとしています。
つまり,標準的な世帯における1か月の必要生計費を33万円としているということです。
そうであるとすれば,少なくとも,33万円の現金は生活の維持に最低限必要となると法も解釈しているということです。
そのため,東京地裁では,破産者が破産手続開始時に有している現金が33万円以上であった場合には,同時廃止にはならず,管財手続(少額管財)となるという運用をとっています(平成29年4月1日から)。
99万円以下の現金を自由財産とすることとの関係
しかし,疑問に感じるところがあります。それは,99万円以下の現金が自由財産となるという破産法の規定との関係です。
99万円以下の現金を自由財産とする法の趣旨
破産法では,99万円以下の現金は自由財産となる,つまり,破産者が破産手続開始決定時に99万円以下の現金を持っていたとしても,換価処分しなくてよいということです。
一般的な家庭で必要となる1か月分の金銭は33万円とされていますから,99万円という数字は,3か月分の生活費を意味します。
破産すると破産者は財産の多くを失うことになります。しかし,いくら債務が免責されたとしても,全財産を失ってしまっては,その後の生活をやっていくことができません。
そこで,法は,99万円以下の現金を自由財産とすることにより,少なくとも当面3か月分の生活費に当たる現金は持っておいてよいということにしているのです。
20万円以上の現金を引継予納金とすることの意味
上記の法の趣旨からいえば,同時廃止となろうが管財となろうが,いずれにしろ,この99万円以下の現金は破産者が持っていたままで良く,債権者に配当されることはないということになるはずです。
ところが,東京地裁の運用では,33万円以上の現金を持っていると少額管財となってしまいます。
99万円以下の現金を持っていた場合,この99万円以下の現金は自由財産となるはずなのですが,それが33万円以上であった場合,その現金の中から20万円を引継予納金として支払わなければならないことになります。
たとえば,33万円の現金を持ったまま破産した場合,この33万円は自由財産となりますが,手続としては少額管財となります。
そうすると,この33万円の現金から20万円の引継予納金を支払わざるを得なくなるのです。
これでは,一体何のために現金を自由財産としたのか分かりません。
法が生活費として99万円以下の現金を取っておいて良いとしているにもかかわらず,現実には,生活費として残しておける現金が20万円も減ってしまうのです。
少額管財とされる理由と疑問
前記のとおり,33万円以上の現金を持っている場合には少額管財となるのですが,この運用については疑問がないとはいえません。
仮に33万円以上の現金があるとして少額管財となったとしても,現金は自由財産ですから,債権者には配当されません。
引継予納金として支払われた現金も20万円の大半は破産管財人の報酬となるだけです。
ということは,破産者の財産が99万円以下の現金しかない場合,債権者に配当されることはないのです。
それにもかかわらず,自由財産として法が破産者の生活のために確保しておくことを認めている現金を減らさせてまで管財手続とする必要性があるのかという疑問が生じてくるのです。
もちろん,破産手続の原則は管財手続です。同時廃止とすると,破産管財人による調査が行われないため,不正が生ずるおそれがないとはいえません。
しかし,99万円を超える現金を持っている場合にだけ少額管財とするという運用の方が,99万円以下の現金を自由財産とする法の趣旨に沿うように思います。
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